アジャンタの第26聖壇院内に刻まれた仏像の中で最も多かったのは釈尊の倚坐像でした(前回BLOG御参照)。しかし、第1僧院窟の祠堂の前室、第19聖壇窟、そして、第26聖壇窟の正面ゲートの外壁は、釈尊如来の立像が圧倒的に多く、その中でも、トリバンガ ( 三屈法、三曲法 ) の独創的な立像が目に付きます。

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第19聖壇窟のファサードに刻まれた大小の釈迦如来の立像。正面向きの立像や三屈の立像が見えます。

トリバンガとは、身体のの部分を左右方向のどちらかに僅かに屈っした姿形を表現する技法のことですが、アジャンタの第1僧院窟に描かれた蓮華手菩薩像金剛手菩薩像は、トリバンガ(三屈法)の手法で描かれた壁画の最高傑作とされています。(拙BLOG御参照)

但し、本日のBLOGのテーマは、上述の蓮華手菩薩像金剛手菩薩像のような壁画ではなく、ファサードや石窟内に浮き彫りされた余り有名ではない数々のトリバンガの立像(石造)を採りあげることにします。


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左側: 首、腰、左腿の3ポイントを右側に屈した釈迦如来の立像 (第26聖壇窟)
右側: 首、腰、左腿の3ポイントを左側に屈した釈迦如来の立像 (第26聖壇窟)


僕がトリバンガの立像だと思って採り挙げる写真の仏像が、仏教界でもトリバンガの立像だと認識されているか如何かは定かではありません。なんとなれば、それらの立像写真の中に、3屈のポイントが微妙過ぎて判別し辛いものも含まれていることを認めざる得ないからです。あくまでも僕の独断と偏見による選択であることを最初にお断りをして置きます。

僕が考えるトリバンガの選定要件は、“ トリバンガの3屈ポイントが有ること ” と “ 両足の位置が左右に斜めに開いていること ” の二つです。両足がきっちり揃っている仏像は、仏伝図に掲載された定型化された立像であって、独創性の高いトリバンガの範疇には入りません。


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トリバンガの表現が少しばかり不足している二体の釈迦如来像(第26番屈)

上の左右の写真は、最初の2枚の写真と比べると、両足の開きと腿の捻りが明らかに不足していますが、腰の捻りを効かして何とかトリバンガのイメージを挽回していると思って採り上げたのですが・・・それにしても、仏像製作者の経験や技量によって、 随分と印象の異なるトリバンガが出来上がるものです。

僕の独断によって設定したトリバンガの選定要件には含まれていませんが、肉体が透けて見えるように薄い衣を纏ったサルナート様式の優美な表現力に関しては、上の四枚の写真とも素晴らしい技量だと思います。


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左側: 第1番窟内の祠堂前室の壁面に浮き彫りされていたトリバンガの釈迦如来
右側: 第26番窟内の側廊に浮き彫りされていたヤクシャ像

観音菩薩と混交した像との説もある豊饒神のヤクシャ像も、負けじとばかりに、首を右に傾け、腰も大胆に右に大きく振っています(上右写真)。どうしたことか、膝下は刻まれていませんが、左太腿の角度から見て、足元は左右に傾むけて開かれているに違いありません。付近に観音菩薩と対を成す“ 弥勒菩薩 ” と混交したヤクシャ像もある筈と思って捜したのですが・・・残念ながら見当たらず、写真に納めることが出来ませんでした。

菩薩像は、王家の王子だった釈尊が出家をして悟りを開くまでの姿を表現したものなので、第一石窟の蓮華手菩薩や金剛手菩薩、そして、上写真のヤクシャ像のように、頭上には金銀の王冠、腕や首には金銀のアクセサリー等の宝石類を身に付けています。一方、悟りを得た後の釈尊を表現した如来像は、殆ど裸身に近い身体に透き通るように薄い衣だけを纏っています。

アジャンタのトリバンガ(3屈法)の仏像を眺めていた英国観光団の男性が、“ くねった腰つきが妖しいね ” 、“ モンロー・ウォークならぬ、ブッダ・ウォークだね ” と小声で囁きあっていました。  

異教徒の英国人が囁く怪しからぬ声(?)を耳にしながら、僕はタイが創り出した最高傑作の遊行仏の艶めかしい姿形を想い出していました。

次回に続きます。