《 ① 釈尊の成道の地 》

ビールとバーボン・ウイスキーのお陰で熟睡できたのでしょう、この日の朝の寝覚めは最高でした! 宿泊所の窓を開け放つと、爽快な(寒季)の風が頬を撫でてくれます。 

窓下を見やると、白衣を身に纏った女性仏教徒の団体が、祈りの声を唱えながら通り過ぎて行くところでした。釈尊が悟りを得られた地に建つ大菩提寺(マハーボディ寺院)を参拝するべく、遠く海外から訪れた在家信者なのでしょう。(下写真)


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祈りを唱えながら大菩提寺に向かう女性仏教徒の団体

まだ早朝だというのに、“ お金頂戴部隊 ” の子供達が、宿泊所の玄関前に出張っているのが見えます(上写真)。 学校には行かないの? それとも、始業前の一稼ぎなの? それにしても、目前を通り過ぎる女性仏教徒の御一行に対しては、“ お金頂戴攻撃 ” を仕掛ける様子がありません。 子供といえども、信仰心のある廉潔な人々に、無闇矢鱈にお金を強請るのは悪いという道義心を持ち合わせているのでしょうか?

遅い朝食を終えて、僕達も大菩提寺(マハーボディー寺院)に向かうことにしました。歩いても大した距離ではないのですが・・・信仰心が薄く、廉潔の士でもない僕達が姿を現せば、玄関前で手ぐすねをひいて待機している “ お金頂戴 ” の子供部隊が見逃すわけがありません。

宿泊所のガードマンに乗用車の手配を頼み、子供達が余所見をしている間隙を狙って、玄関前に到着した車に脱兎の如く走り込みました。子供達が口惜しそうに車窓を叩きます。タイヤを蹴り上げている子供もいます。


宿泊所のロビーで一緒だった韓国のお年寄り御一行様は・・・と心配になって見ていると・・・まるで養魚池で餌を投げるかのように、子供に向かって小銭(コイン)をばら蒔き始めました。地面に散らばったコインに子供が群がっている間に貸切バスに乗り込もうという作戦です。インド的にはスマートな手段かもしれませんが・・・僕にはチョット・・・

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人混みでごった返す大菩提寺の参道入り口

車で5分も走らない内に、大菩提寺に通じる参道前の駐車場に到着です。幾つもの仏教的な飾り物がぶら下がる参道に入ると、多くの土産物屋が軒を連ね、執拗な売り込みをする男性と観光客が混在して、まるでお祭り騒ぎのような雑踏です。(上写真)

参道の奥へと進むと、鉄格子の手前から大菩提寺の境内を見下ろしている物乞いの母子がいました。たとえ観光地とはいえども、此処から先は仏教の代表的な聖地ですから、物乞いの彼らは立ち入ることが出来ません。(下左写真)

土足厳禁の大菩提寺の境内に入ると、参道の混沌とした雑踏とは打って変って、物静かな仏教徒や観光客が三三五五と連れ立って厳かな空間を味わっています。(下右写真)

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左:大菩提寺の境内を見下ろす物乞いの母子
右:大菩提寺境内の本堂前の通路を歩く仏教徒

大菩提寺境内を見下ろせる通路から目を上方に転じると、何度も写真で見たことのある高さ52mの大菩提寺の大仏塔(本堂)が聳えていました(下写真)。仏塔の裏手にある有名な菩提祠(ボーディガラ)は紀元前2世紀大仏塔の最初の建立は7世紀だと聞いていますが、想像以上に立派な佇まいに驚いてしまいました。他国の団体客さんの話を聞くと、19世紀に入って大改修工事が施されたのだとか。

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大菩提寺境内に聳える大仏塔(塔の裏手の菩提樹の下に釈尊が悟られた時の金剛宝座があります)

大菩提寺の仏塔を“ 世界的遺跡の一つ ” として見る僕にすれば、余りにも立派に復元された遺産の容姿を目の当たりにすると・・・率直に言って、大きな違和感を覚えてしまいます。タイのアユタヤやスコータイの綺麗に復元された遺産を見た時も、やはり同じような印象を抱いたことを今でも覚えています。

しかし、熱心な仏教徒の立場から見れば、世界遺産としての大菩提寺は、バリバリの現役仏教寺院でもあるわけです。そんじょそこらにある単なる世界遺産と違い、仏教世界における世界最古の崇高極まりない世界遺産の現役仏教寺院を、考古学的史料を参考にしつつも、最高の状態で復元したい思うのは、よくよく考えて見れば、当然の成り行きだと思います。古色蒼然たる遺跡を良しとする僕の趣味的な考えは、改める必要があるかも知れません。 

次回に続きます。


追記
昨年の12月31日に、ミャンマーと国境を接するタイ西部のサンクラブリのモン族の町を訪れた折に、予期していなかった金綺羅に輝く仏塔を発見。タイ人の大好きな金綺羅色を除けば、仏塔の形状と壁面の模様は、インドの大菩提寺の仏塔をそっくりそのままコピーしたものでした。(下写真)


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サンクラブリのモン族の町で見かけた金綺羅色の仏塔

現地のモン族の人に仏塔の名前を聞くと、Chedii Phutha Khayaa เจดีย์พุทคยา 。仏教徒から集めた浄財によって、インドのブッダガヤの大菩提寺の仏塔と同じものを、サンクラブリの町に建立したのだそうです。

僕がインドのブッダガヤの大菩提寺に参拝して来たことを告げると、羨ましそうな表情を浮かべた売店の小母さんたちに囲まれてしまいました。誰もインドの大仏塔を見たことがなく、『 いつの日にか、インドのブッダガヤを訪れてみたい! 』 と朗らかに語る小母さんたちでした。