《インド旅行の続きです》

海外旅行で鉄道を利用した経験は、タイ国内を除けば・・・ベルギ ⇒ フランス、北京 ⇒ 天津、スエーデン国内、イタリア国内・・・と余り多くないのですが、どの旅にも好き想い出があり、今でも懐旧の念に浸ることがあります。

ベルギー ⇒ フランスで乗車した特急列車では、タオル地のお絞りサービス、ワイン・サービス、フランス料理のサービスなど、飛行機のビジネス・クラスを上回る雰囲気があり、さすが鉄道先進国を彷彿とさせるものがありました。その旅の途上に、スペイン国境近くの “ カルカッソン城塞 ” (下写真)の “ 領主の部屋 ” で宿泊した想い出は、今でも忘れることが出来ません。

タイに魅せられてロングステイ
スペイン国境近くのフランス領内に残るカルカッソン城塞
(写真左奥の赤屋根の最上階の領主の部屋で宿泊しました)

二年前のイタリア旅行でも、飛行機を全く使用せずに、気分の趣くまま、イタリア版の新幹線やローカル線を乗り継いで南北を縦断しましたが、話好きなイタリヤ人乗客の手助けを借りながら、実に楽しい鉄道旅行を満喫することが出来ました。

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イタリアの特急列車と車内

スエーデンのイヨテボリからショーブダまで乗車した鉄道も記憶に残るものでしたが・・・またまた悪い癖が出て、話題が横路に逸れ始めました。初体験のインド鉄道の話に戻しましょう。

インド鉄道は、世界トップ・クラスのIT技術を導入した世界に冠たる鉄道大国だと書かれた雑誌記事を読んだことがあります。首都デリーの凄まじいまでに無秩序で混沌とした交通状況を経験した僕としては、とても信じられない情報なのですが・・・

首都デリー駅から、東インドのヴァナーラースィ駅までの距離は758kmですが、手元の乗車切符を確認すると、デリー発18時30分、ヴァナーラースィ駅到着は翌朝の07時30分とあります。 日本の新幹線ならば四時間足らずで到達する距離ですが、インドの特急夜行列車は、なんと13時間もかけて走行するようです。 先進的な鉄道技術を誇る “ 鉄道大国 ” とはとても思えない・・・そんな気がしないでもありません。

インド鉄道の乗車券をスムーズに入手するには、列車番号と列車名、そして、列車の始発駅、自分の乗車駅と下車駅の略記号 ( Station ode ) を、前もって調べて置く必要があります。 例えば、ニューデリー駅は “ NDLS ”、目的地のヴァナラーナスィ駅は “ BSV ” といった按配です。 

若しも駅名の略記号を知らなければ、駅名表から該当する駅名の略記号を捜し出さなければなりません。少なくとも、不馴れな外国人が、混雑する窓口で乗車券を入手するには、かなり煩わしい予約システムだと思うのですが・・・
 

更に、自分の望む座席を得るには、インド鉄道の座席のクラス分けを知って置く必要があります。例えば、コンパートメン式の1A(First A/C)、二段寝台の2A(2-tier A/C)、三段寝台の3A(3-tier A/C)などの8種類の区分と違いを頭に入れて置きさえすれば、エアコン無しのSC(Sleeper Class)クラスとか、囚人護送車を思わせるようなエアコン無しのSS(Second Seating)クラスに乗車する破目に陥り、“ こんな筈ではなかった ” と吃驚仰天するすことも無いと思います。(下写真) (上記のような事前知識があれば、外国人専用窓口の無い田舎駅でもなんとかなります)

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無賃乗車を防ぐために、鉄棒で塞がれたSSクラスの車窓

インドの11億人近くの低所得者(庶民層)が利用するであろうエアコン無しのSS車両(Second Seating)の車窓(上写真)には、まるで牢獄を思わせるような鉄棒が張り巡らされていました。 無賃乗車を防ぐ有効措置だそうですが・・・火災や脱線事故が発生した時には大惨事に繋がるに違いありません。 インドの庶民層の殆どを占める低所得者と貧困層の “ 命の安さに ” 愕然とする思いがします。

首都のニュデリー駅に、数時間遅れで次々と入ってくる囚人護送列車の如きSS(Second Seating)クラスのオンボロ列車(上写真)を見ていると、“ どうしてインドが鉄道大国なの? ” と不思議に思うより先に、何かしら無性に腹立たしくなってくる自分に気付きます。

首都デリーの中央駅の広大な待合室と薄暗いプラットフォームの地面に、汚れた布地を頭から被って寝転ぶ数千人の人々を見ました。よく見ると、汽車を待っている人々よりも、明らかにホームレスと思しき人の方が遥かに多いことに気付かされます。 経済成長の著しいBRIIGSとして世界の脚光を浴びるインドが、11億人もの低所得層と貧困層を抱えているという摩訶不思議な現実を垣間見たような気がしました。

僕が予約している2A寝台車(A/C付き二段寝台)の出発時間を電光掲示板で確認したかったのですが・・・いつまで経っても掲示されません。 不審に思って駅の案内所で聞くと・・・

駅員 『 列車番号と列車名は?』
 僕 『 列車番号 2560、 列車名 Shiv Ganga Exp. 』
駅員 『 その時間表を見せて 』 

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インターネットから入手した列車の時間表
758kmを13時間かけて走行する列車ですが、停車駅は僅かに3駅だけです。

駅員 『 列車番号2560・・・これは必ず来る。大丈夫だよ! 』
僕  『 どうして、電光掲示板に出ないの? 』
駅員 『 掲示板よりも俺の方が正確さ! 』
僕  『 どのくらい遅れているの?』
駅員 『 分からない。その内に来るから大丈夫 』


プラット・フォームで待つこと暫し、予定時間を60分過ぎても、列車が到着する様子はありません。遅延のアナウンスすら無いのですから、遅延の原因説明なんてある訳もありません。“ インドでは10時間以上の遅れなんて当たりまえさ! ” と諦観していたインド駐在経験者の台詞が頭をよぎります。

1時間30分を経過。諦めの境地になりかけた時、何の予告もなく、我らの列車が薄暗いプラットフォームに滑りこんで来ました。エアコンの無い列車からエアコン付き列車への移動が出来ないように錠前がかけてあるから、“ 違う車両に絶対に乗らないように! ” と注意を受けていたので、車体に記載されている 2Aマークを必死で捜していた時、突然、プラットフォームが暗黒の世界と化してしまいました。インド名物の突発停電です。

首にかけていた非常用懐中電灯をすかさず取り出し、レールを軋ませながら滑り込んで来る列車を照らしながら、自分の乗る2A車両(エアコン付き2段寝台車)を必死で捜し出し・・・漸く該当の箱に乗車することが出来ました。

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2A車両(エアコン付き2段寝台車)

既に20時を過ぎていたこともあって、寝台には、枕、毛布1枚、シーツ2枚が既にセットされていました。荷物の盗難事故が多いらしく、インド人乗客は一斉に持参の金属チェーンと錠前で手荷物を固定します。 盗難防止冶具を何も用意していない外国人乗客に、チェーンと錠前の売り子が、すかさずにじり寄って商売を始めます。

まだ宵の口なので、いつもならば “ 晩酌の時間 ” なのですが、飲酒を嗜む習慣のないヒンドゥ教の乗客が多いこともあって、今宵は早々と就寝することにしました。

ウトウトし始めた頃 “ インドは鉄道王国 ” の意味がふと思い浮かびました。 多分、“ 利用客数NO.1 ”、“ 鉄道網の長さNO.1 ” ではないかと・・・そのまま寝込んでしまいました。

続きは次回です。