ラーチャダムリ通りにあるホテルのロビーでお茶を飲んだあと、ホテル裏口から裏道に抜け出ると・・・ホテルの厨房要員(約30人)とオレンジ色のつなぎ服を纏った大柄な消防署員数人が何やら騒々しくしています。

消防署員が準備した “ 黒い鉄製の平箱 ” (下写真)の側に、ホテルの司厨員が持ち込んだ大型の業務用消化器が並べられていました。消防署の隊長らしき人が、打ち揃ったホテルの男女の司厨員に、“ 消火器の使い方 ” を大声で確認しています。どうやら、今から、消化器を実際に使用して “ 消化訓練 ” を行うようです。


消防署員が持ち込んだ黒い鉄製の箱

このような実際を想定した模擬訓練は、一般的なタイ人の性格からして、およそ似つかわしくないように思えるのですが、その不真面目さ加減を見てみたい気持ちに駆られて、こちらも無責任な野次馬の一人に仲間入りすることにしました。

野次馬を意味するタイ語は、タイ・ムン ไทยมุง と言います。しかし、僕は日本人ですから、正確なタイ語としては、イープン・ムン ญีปุ่นมุง と表現すべきなのでしょう。何となれば、“ イープン ” は “ 日本 ” を意味するタイ語だからです。

消防隊長の号令によって、鉄の平箱に入れられていたガソリンに点火! 小さな爆発音を発して黒煙とともに火炎があがると、司厨員や野次馬の間から “ どよめき声 ” があがります。 取り立てて “ どよめき声 ” をあげるようなことではないと思うのですが・・・ことほど左様に、大きなおとなのタイ人です。


黒煙をあげて燃えあがるガソリン、

消化開始 ” の号令で、“ 男性司厨員 ” を主とするグループが消化剤を噴霧するのですが、燃え盛る火炎はおいそれとは消えません。(下写真)

もっと火元に近づけ! ” と隊長の大声が飛ぶのですが、へっぴり腰の男性司厨員は、遠巻きに消化作業をするばかりで、火元に近づこうとしません。“ 何をしている! もっと火元に近づけ! ” と隊長がせっつくのですが、男性司厨員は、まるでオカマの様な仕草を繰り返すばかりです。


遠巻きに消化をするへっぴり腰の男性を主とするグループ

堪忍袋の緒が切れた隊長は、第二グループの女性を主とする司厨員グループに出動を命じます。女性グループは、火元に向かって果敢に前進! それでも消えないとなると、自分の意志でまた前進! 遂に見事に消化してしまいました。 その振る舞いを見ていた数名のタイ人野次馬(タイ・ムン)と約一名の日本人の僕(イープン・ムン)は拍手を送ります。


火元に近づいて果敢に消化作業をする女性ブループ

消防署の隊長さんが大声をあげて念押しを始めました。
今日は全員に演習をしてもらうよ!
未だ演習をしていない人はいないかな?
君は? そう君だよ、未だやってないだろう


指名された一人の女性が “ バレちゃった ” と首をすくめて前に進み出ます。隊長は女性であろうと容赦はしません。“ 罰として一人で消火作業をしなさい! ”(下写真)


罰を受けて、たった一人で消化演習をさせられる女性

彼女が一人で消化演習をしている間も、他にサボっている人がいないかと捜していた隊長さんの目が、ホテルの敷地から少し外れた道路上から、同僚の演習状況を遠巻きに見ていた女性一人、男性ニ人のコックさんに留まりました。


遠巻きに見ていた三人のコックさん

消防署の隊長さんが厳しく言い放ちました。
君達は、いつも火元に一番近い所で働いているのじゃないか!
君達が逃げていたのでは、宿泊客を守ることはできないよ!
それとも、厨房の消化班は勇敢な女性だけに任せるつもりなのかい!?


多分、厨房で最も発言力のあるコックさん達なのでしょうが、隊長さんの筋の通った叱咤にかかっては二の句も継げられません。この後で、コックさんグループだけが、みっちり演習をさせられることになるのですが、それは当然の帰結というものです。

タイでは、どんなに些細なことであっても、人が人を人前で叱ることはタブーとされています。上司と部下であっても同じです。どうしても叱咤せざるを得ない場合は、誰もいない別室で、声を荒げないように注意することになるのですが、この点は日本と大きく異なります。日本の習癖をそのまま持ち込んだが故に、傷害事件の被害者になった日本人も少なくありません。

タイの公務員といえば、役人風を吹かして威張りちらし、収賄に励む連中ばかりと思っていた僕ですが・・・例え単なる消化の模擬演習とはいえ、こんなに真摯な対応をするタイ人の公僕がいたなんて・・・見直してしまいました。

別にBLOGに書くような出来事ではないのですが、何となく嬉しくなってUPしてしまいました。