バンコク周辺の公園に行くと、樹高が5m程度、葉柄(ようへい)と葉軸が緋赤色、羽状葉は椰子の葉をした風変わりな常緑樹を見かけることが出来ます。

面白い植物だとは思っていたのですが・・・樹名を記した標識があるでもなく、近くにいる人々に聞いても、“ 分かりません ” と微笑み返しをされるのが常で、つい最近まで、この植物の名前を知らないまま遣り過ごしていました。


公園の彼方此方に植栽されている葉柄と葉軸が緋赤色の常緑樹

バンコクの隣県にあるラーマ二世公園で、僕がこの植物の撮影をしていた時のことです。シンガポールからタイ旅行に来たという英国人男性が、同伴の中国系のタイ人女性に問いかける声が、僕の背後から聞こえて来ました。

彼 『 この木はシンガポールの植物園のアヴェニューにもあるよ
女 『 英語で何と言うの?
彼 『 RED SEALING WAX PALM or LIP STICK PALM
女 『 面白い名前ね
彼 『 赤い色素を、封書や書類の封蝋 & 口紅に使用したからだと思うよ
女 『 フーン、封蝋 (RED SEALING WAX) と口紅の原料なの・・・
彼 『 この植物のタイ語名は?
女 『 赤い椰子だから トン・マーク・デーンต้นหมากแดง かしら・・・
彼 『 好い加減だな、あまり信用できないな
女 『 そうね、 英語名の方が素晴らしいネ


葉柄と葉軸の赤い色素を利用して、手紙や書類の封蝋 & 口紅に使用 ”という彼のさり気ない説明は、実に新鮮な響きがありました。特に、“ 手紙や書類の封蝋 ”というのは、現在では廃れてしまった風習だけに、なんとも印象的で記憶に残る話です。


封蝋や口紅の原料として使用された緋赤色の色素

葉柄と葉軸の赤い色素を利用して、“ 手紙や書類の封蝋 & 口紅に使用 ” という彼のさり気ない説明は、実に新鮮な響きがありました。特に、“ 手紙や書類の封蝋 ”というのは、現在では廃れてしまった風習だけに、なんとも印象的で記憶に残る話でした。

緋赤色の葉柄部分をアップで撮影するべく、カメラを緋赤色の幹に近づけて覗くと、何と! 幹は緑色でした。おまけに竹のような節さえもあるのです。(上写真&下写真)

つまり、葉柄(幹)と葉軸の元々の色は緑色であり、緋赤色ではなかったのです。緋赤色に見えたのは、緋赤色をした葉鞘(ようしょう)が、葉柄や葉軸に巻きついて鞘状となっていたからでした。

若しも、英国人の男性の “ 封蝋の原料説 ” が正しいとすれば、それは、“ 葉柄や葉軸の色素 ”ではなく、“ 葉鞘の色素 ”を原料にしていたことになりますね。



封蝋の原料は、 葉柄や葉軸ではなく、葉鞘の緋赤色の色素だと思います。

自宅に戻って、中国系タイ人女性が、タイ語の名前として当てずっぽうに答えていた “ トン・マーク・デーンต้นหมากแดง を、念のためにタイ日辞典で調べたところ、驚き、桃の木、山椒の木、載っていました! 日本語訳は “ ショウジョウヤシ ” とあります。

次に、英国人男性が説明していた “ RED SEALING WAX PALM ” を調べてみると、 樹高が5m前後のものを“ ヒメショウジョウヤシ ”、樹高10m前後のものは、“ ショウジョウヤシ ” とありました。

ついでなので、“ ショウジョウ ” の由来も調べて見ました。ショウジョウとは、中国の想像上の動物で、人間に似た酒好きの緋赤色の怪物のことでした。その怪物の漢字名が “ 猩猩 ” なのだそうです。

僕が撮影する背後で、仲良く戯れていた英国人と中国系タイ人のお二人さん、“ 貴方たちは賢かった ”。お陰さまで、英語名、タイ語、そして日本語名さえも、一度に知ることが出来ました。 お二人の幸せを心から祈念します。 感謝感激。謝礼多多。