《前回の果樹園見学の続きです》

昨日の話題はドラゴン・フルーツ(タイ語:ゲーオ・マンコン แก้วมังกร )でしたが、本日は、タイで最も一般的な果物のランブータン(タイ語:ンゴッ เงาะ )について触れてみたいと思います。とてもありふれた果物ですので、既にご承知の方は読み飛ばしてください。

僕がこの果物を初めて食したのは、25年以上前、仕事で西マレーシアを訪れた時のことでした。クアラルンプールからペナン島へ向けてマレー半島を乗用車で北上する道中、同行した取引先の中国系マレー人部長が、果物露店商から緑色の毛の生えた異様な赤い果物を、おやつだと言って大量に買い求めたのです。


タイの露店で山盛りで売られているランブータン

その当時、マレー半島を北に向けて縦貫する国道沿いには、たくさんのランブータンの木が茂り、赤く完熟した果実や未熟の黄緑の果実がたわわに実って(方言:もぶれつく)いたものです。

中国系マレー人の彼は、食べ方の分からない僕に、指先でクルット果皮を剥き、乳白色の半透明の果実を口の中に放り込み、果肉の中の種子を、口をモグモグさせて器用に取りだします。早速、見様見真似でトライして見ました。

まるで、海底のバフンウニの硬い棘のように見えた毛は意外に柔らかく、果皮も簡単に剥けたのですが、口の中で果肉と種子を切り離す作業が中々上手く出来ません。已む無く、そのまま噛むと、ゴリゴリ感が口に残って、折角の果肉の美味しさが半減してしまった懐かしい想い出があります。


果樹の高さは3m~10m、良い果樹だと一本で5,000~6,000個の収穫が可能
(タイのチャンタブリ県の果樹園で撮影)

タイでもマレーシアでも、一般の人々は、鉄分を含み、ビタミンCの豊富なランブータンを生食果実として楽しむのですが、食品加工用や工業用原料としての用途、例えば、食用油、ジャム、果実酒、石鹸、染料、薬品などにも広く用いられていると聞きます。

中国系マレー人の彼によると、ランブータンの原産地はマレーシアなのだそうです。なんとなれば、ランブータンの言葉は、“ 毛のある物 ”を意味するマレー語なのだとか。ランブーは“ 髪、毛 ”、そして、タンは“ 物 ”を意味するそうです。

ところが、タイ人は、ランブータン(タイ語:ンゴ เงาะ )の原産地はタイだと言い張ります。国境を接する国々の人々は、取るに足らないようなことでも、互いの主張を譲らない傾向がありますが・・・地続きのマレー半島で繋がる両国ですから、原産地はマレー半島とでもして置けば、お互いの面子が立つというものでしょう。


ランブータンはムクロジ科ランブータン属の果実

ランブータンは、ムクロジ科ランブータン属の果実です。140属もある仲間の中には、食感の似たレイシ(ライチ)やロンコン(竜眼)も含まれています。ランブータンの果実の大きさは6cm前後、果肉の種子は約2cm、緑毛の長さは約2cmもあり、どれを比較しても、レイシやロンコンよりも大き目のサイズです。甘さと微かな酸味は似通っていますが、ランブータンの方が若干アッサリ感が強いように思います。

昨日のドラゴン・フルーツ(タイ語:ゲーオ・マンコン)もそうですが、ランブータン(タイ語:ンゴッ)も追熟が効かない果実なのです。したがって、樹上で完熟してから収穫、即、出荷せざるを得ません。市場の値段を操作するために青田刈りをして在庫調整することは難しく、ましてや、遠隔地や輸出向けとしては全く不向きな果物といえます。


タイの果樹園でたわわに実る完熟前のランブータン

僕がタイのチャンタブリ県のフルーツ祭りに行った時の価格(九日)は、キロ・グラム当たり15バーツ~20バーツ(約60円)でしたが、今朝のテレビ・ニュースの市場価格速報では、なんと! キロ・グラム当たり8バーツ(約25円)まで暴落していました。お気の毒ですが、豊作貧乏なのでしょうか?

チャンタブリ県のフルーツ祭りで知り合った若者の好意で、思いもかけず見学できた果樹園でしたが、帰りがけに、ランブータンが3kgも取り付いた小枝をフリーで頂戴してしまいました。

頂戴した小枝付きランブータンは、マレーシアで御馳走になったランブータンも同じでしたが、甘い香りが誘うのでしょうか、小さな蟻(アリ)がたくさん取り付いていました。

バンコクの自宅に戻ってから、急いで果実を捥ぎ取り、小枝と外殻に取り付いたアリを水洗いしました。更に、車内のトランク内に残ったアリを水洗で流出しなければなりませんでした。甘くて美味しい果物は、アリさんも良く御存知のようです。



中国・唐の玄宗の寵愛を一身に受けた楊貴妃は、ランブータンと同じ仲間のライチ(レイシ)が大好物だったそうですが、若しも、ほのかな香りがある多汁質の甘いランブータンを食されたならば、どのような感想を抱かれたのでしょうか。

楊貴妃は、『 お黙りなさい! 果物の女王は、何はさて置いても、ライチです! 』、などと仰るのでしょうか?

チャンタブリ県の若者から頂戴したランブータンの果実に“ ブランデー酒 ” を少しばかり振りかけて、『 ランブータンには、ブランデー酒が良く似合う 』などとそらとぼけながら、今宵のひと時を楽しむ hiro-1 でした。