山頂に続く山道を登りきると、S字に曲がった歩道の突き当たりに瀟洒な別荘の『プラ・タム・ナック・ドーイ・トゥン (注1)』(王太后の別荘)があります。現国王が還暦(1987年)を迎えられた折に、母君の王太后(注2)のために建てられたものです。
(注1)プラ・タム・ナック・ドーイ・トゥン พระตำหนักดอยตุง
(注2)スィーナカリン王太后(1900年御生誕 - 1995年御逝去)
チョット珍しい建築様式ですが、タイ人観光客の話によると、スイスの山岳家屋の様式とタイ北部の地元に伝わるランナー・タイ様式がミックスされているとのこと。
建物の外壁は木材ですが、内壁はコンクリートで造られています。外見は三階建ての木造建物に見えますが、傾斜地を利用しているために四階建てになっていました。
斜面に建っているので入り口は2階になります。
ランナー・タイ様式の特徴は幾つかありますが、その特徴はなんと言っても屋根の突端部分に取り付けられたチーク材に彫刻を施した『ガラエ 』と呼ばれる棟飾りでしょう。
元々は中国の雲南地方から伝来したものだそうですが、力強くて勇ましい水牛の角を『勝利の象徴』としてイメージ化したものだそうです。農業が中心のタイ北部では、働き手としての水牛を崇める風習が昔からあったのだとか。
日本の神社の破風の先端に交叉した『置千木(おきちぎ)』を想像してしまいました。
水牛角をデザイン化した棟飾り(ガラエ)
屋根裏周りの花壇を設えた部分は、王太后が若かりし頃にお住まいになっていた懐かしきスイス時代の山荘の風情を取り入れたものだと聞きました。
この別荘内は、王太后が御逝去された後に開放(有料観覧)され、今では誰でも見学することができます。玄関周りの窓辺と前庭に咲き誇る真紅のゼラニウムを眺めながら見学の順番を暫し待ちます。
別荘の窓辺と前庭に咲くゼラニウム
別荘室内での撮影は禁止でしたが、ベランダでの撮影は黙認されているようでしたので数カット撮らせて頂きました。ベランダからは、ミャンマーとの国境に連なる山並みを見ることが出来ます。
ベランダを囲むように真紅のゼラニウムが咲いていました。
ベランダから望見できる国境の山並み
ベランダ通路の窓ガラス越しに、王太后の仕事部屋と寝室を見ることが出来ました。王室の王太后の御部屋としては大変質素な作りだと思います。
ベランダを抜けると裏口に出られます。右奥手にも庭があるようですが、直立姿勢を保った兵隊が警護していて入ることが出来ません。そのまま左手に向かうと別荘の前庭に戻ることが出来ます。
裏出口の通路近くにも黄色と白色の可憐なパンジー、そして品種の異なったゼラニウムが咲いていました(下写真)。
前庭から緩やかに下った谷間を見ると、木々の間から見事な花園が垣間見えました。これが今日の訪問目的の一つ、『スアン・メー・ファー・ルアン สวนแม่ฟ้าหลวง』(王太后公園)です。
次回は『スアン・メー・ファー・ルアン』(王太后公園)を御紹介がてら、王太后が何故にミャンマーとの国境近くの山荘にお住まいになられたのかについて触れて見たいと思います。