温泉街と言えば、風流人ならば、山並みの奥深い場所にある湯治場、遊び好きの人ならば、眩しい原色のネオン輝く夜の社交場を想像されるかもしれませんが、湯田温泉は山口市内の幹線道路に沿った比較的健全な住宅街の中に
ある温泉です。
僕がまだ子供だった頃、湯田温泉には10円で入浴できる大銭湯があり、仲間同士で連れ立って、よく泳ぎに行ったものでした。その場所が在ったであろう場所を捜し求め、『山頭火通り』を彷徨ったのですが、それらしき場所を見つけることは出来ませんでした。今の時代、プールのように大きい銭湯なんて経済的にも成り立たないのでしょう。
『山頭火通り』とは、山口市の隣の防府市で生誕(明治15年)した行乞行脚の俳人、種田山頭火の名前を冠した小路です。出家して日本各地を漂白しながら詠んだ彼の自由律の句は遍く知られていますので、御存知の方も多いかと思います。
『山頭火通り』のマンホールの蓋に、僕でも理解できるような、とても分かり易い自由律の句が彫り込まれていました。
『しぐれへ 三日月へ 酒買ひに 行く』 『酔うて こほろぎと 寝ていたよ』
『山頭火通り』のマンホール蓋の句を読みながら進むと、『酒の句』から『お湯の句』の句調に変わる所があります。其処から先は『湯の香通り』になります。
『ちん●こも おそそも 湧いて あふれる湯』
趣のある路地裏のような『湯の香通り』を進むと、路傍に『足湯』がありました。一人の若い女性が、読書に耽りながら、素足を行儀良く温泉の中に浸して座っています。
湯の香通りの足湯
『湯の香通り』を抜けて旧国道の9号線を横切ると『公園通り』に入ります。この公園の入り口に近い路傍にも『足湯』がありました。
足湯を楽しむ土地っ子の若い女性連れ、子供連れで足湯を楽しむお父さん、足湯の中ではしゃぐ幼児、人それぞれですが、なんとも長閑で微笑ましい光景です。
高田公園内の足湯
『公園通り』のマンホール蓋の絵は、両方とも『白狐』の顔絵が描かれていました。彼らと一緒に足湯に浸りながら、『白狐』の謂れを聞くと・・・
僕 『白狐の絵に何か意味があるのですか』
女性 『大昔、足傷を負った白狐が此処で温泉療法をしていたのです』
男性 『西暦1200年頃の古文書の中にある話なのです』
彼らの話を物語草子風に纏めると・・・
昔、昔、足に傷を負った白狐がいたそうな。
白狐は、夜な夜な寺の境内の池に足を浸しに来ていたとさ。
それを見ていた和尚さん、
池の中に温泉が湧いているのに気がついたとさ。
女性 『それが湯田温泉の始まりなのです』
男性 『公園内に、白狐伝説を絵にした石碑絵があります』
なるほど、公園内の大きな黒石に、温泉池で傷を癒す白狐の絵と、それを見入る僧侶の絵が描かれていました。
温泉池で足の治療をする白狐 それを眺める和尚さん
先ほどの男女から聞いた話、そして黒石に描かれた絵を見て思い至ったのですが、『湯の香通り』と『山頭火通り』の隅っこに置かれていた『狐の石像』の意味が、ようやく理解できました。
入浴を楽しむ親子の狐 気持ち良さそうにタオルを使う狐
湯田温泉の発見者が『白狐』という話、そして、湯田温泉の路傍に『足湯』があることも・・・全く知りませんでした。
僕の子供時代には、足湯は無かったような気がするのですが・・・いずれにしても、こんな調子では、『我が故郷・山口市』なんて言う資格はなさそうです。
タイの文化、歴史、遺跡に興味を抱いて勉強している僕ですが、こんな事では、『灯台下暗し』と蔑まれても仕方ありません。
それにしても、『足湯に素足を浸す』なんて最高ですネ。病み付きになりそうですが、残念ながら、タイには『足湯』なんて無い・・・と思いますが・・・