352 高橋さんに相談 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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「私、この家を出て

アパートに戻ろうと思うの」

 

突然のみどりの告白に、健太は頭が

真っ白になった。

 

「そ、それは一体、どういうことだ?」

 

健太がしどろもどろになりながら聞くと、

みどりはキッパリと言った。

 

「私が入院する前に戻るってこと。

以前の私達に戻るってこと。

ただの中学の同級生に戻るってこと」

 

みどりは涙ぐみながら言った。

しかし、気が動転している健太は、みどりの

涙に気が付かない。

 

「それじゃあ、私、色々と準備があるから。

夕飯は、カレーが作ってあるから、自分で

食べてね」

 

みどりはそれだけ言うと、立ち上がって、

自分の部屋に向かう。

健太は、ヘナヘナとそこに座り込んだまま、

動くことも出来ない。

 

その夜、健太はみどりと一言も言葉を

交わさなかった。何か聞こうにも、何を

聞いて良いのかさえも分からない。

 

健太には、みどりの深い悲しみが、

全く見えていないのだった。

 

翌朝、ベッドの上で目が覚めた健太は、

昨日の事は悪夢だったのだと思いたかった。

 

今朝になれば、みどりはいつものみどりに

戻っていて、明るい笑顔で朝食の支度を

しているはずだ。

 

健太は恐る恐る台所をのぞく。

すると、テーブルの上に冷めたホットサンド

が置いてあった。中味は、健太の好きなハム

とチーズと卵焼きだ。

 

健太は、まだ大丈夫なのではないかと思えた。

そこで、勇気を振り絞ってみどりの部屋を

ノックする。

 

「みどり、ちょっと良いかな」

 

「何?私、今、忙しいんだけど」

 

ドアを開けると、みどりが自分の荷物の

荷造りを始めている。

 

「みどり、本気なのか。

どうして急にアパートに戻るなんて・・・」

 

健太が言うと、みどりは背中を向けたまま

言った。

 

「抗がん剤治療が大変なの。

それに、ここからだと通勤も辛いし、

これからは残業もあるし、アパートからの

方が便利なの」

 

健太は、そのままドアを閉めると、着替えて

外に出た。みどりと同じ空間にいる事が、

耐えられなくなってきたのだ。

 

「誰に相談しよう」

 

健太は車を走らせながら、考えをめぐらす。

 

楓や哲也に言ったら、本当に破局まで一気に

突き進みそうで怖かった。

 

「そうだ、高橋さんに相談しよう」

 

しかし、高橋さんは日曜日は勤務日だ。

仕事が終わるのは午後4時過ぎだ。

 

健太は、みどりにLINEをした。

 

「今日は高橋さんとグリーフケアの会の件で

打ち合わせがあるので、帰りが遅くなります。

夕飯は外で済ませます。お昼も外で食べます」

 

みどりは何かに怒っている。

LINEも読んでくれないかもしれない。

健太は心配したが、LINEはすぐに既読が

ついた。でも返事は無かった。

 

健太は、一日中ブラブラしながら、午後4時

まで待つ。こんなに時間が経つのが遅いと

思ったことは無かった。

 

午後4時過ぎ、健太は特養から出てきた

高橋さんを捕まえる。

 

「高橋さん、どうしても今すぐ、

相談にのって欲しいことがあるんです」

 

健太のただならぬ様子に、

高橋さんは驚いていた。

 

健太!  解決できるか?

 

TO BE CONTINUED・・