348 みどりの立場 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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精進落としの会食が終わり、それぞれが自宅

へと帰って行くことになった。

 

「私は七海と、海沿いの温泉宿が予約して

あるから、タクシーを呼んでちょうだい」

 

華江の言葉に、楓は会館スタッフにタクシー

の手配を頼む。タクシーが迎えに来て、

玄関先で全員が華江と七海を見送る。

 

「華江おばさん、ありがとうございました。

四十九日は7月27日の土曜日です。

おばさんはどうなさいますか」

 

楓の言葉に、華江が答える。

 

「そうね、暑い時期だから体調と相談して、

また直前にお返事するわね。気持ちとしては、

来たいのよ。多分最後になると思うから」

 

タクシーに乗り込んでから、華江は健太に

向かって言った。

 

「健太、若いお嫁さんもらって、子供を

たくさん作りなさいね。

君江お姉さんもきっと喜ぶわよ」

 

健太は笑いながら聞き流す。

 

やがて、タクシーは海沿いの温泉に向かって

走り出した。

 

楓は、颯介とフィアンセの河上絵里香に

持たせるお土産を渡すと、駅まで見送りに

行くと言う。

 

浩介夫婦は、紫織が眠っている今のうちに、

出発することになった。

 

会館に残った健太と哲也とみどりは、

ロビーで自販機のコーヒーを飲みながら

少しゆっくりしていた。

 

「健太、お疲れ様。家族葬とは言っても、

やることは同じだから、結構大変だったな」

 

哲也が健太をねぎらう。

 

「哲也、ありがとう。

でも、ほとんど姉貴が段取りしてくれたから、

俺はレールの上に乗っていただけだからな」

 

「健太、特養の付き添いからずっと、あまり

眠れてないでしょう。今夜は早めに休んだ方

が良いわよ。明日からの仕事もあるし」

 

みどりが、疲れの残る健太の顔を見て心配

そうに言った。

 

「健太、忌引きは取らないのか」

 

哲也が聞くと、健太が言った。

 

「火曜日からずっと、ほとんど仕事らしい

仕事をしてなかったからな。

市役所の手続きなんかは、姉貴でも出来る

そうだから、姉貴に頼んだんだ。

書類仕事は、姉貴の方が得意だからな」

 

哲也がうなずきながら、みどりに向かって

言った。

 

「みどりちゃん、そろそろ抗がん剤治療

始めるんじゃなかったか」

 

「ええ、そうなの。6月14日の金曜日が

初回で、3週間に1回のペースなの。

結構きついみたいだから、金曜日にお休み

貰って、週末は家でゆっくりしようと

思ってるの」

 

みどりの言葉に、健太が少し驚いた顔をした。

 

「みどり、そうだったな。ごめんよ、俺が

おふくろの事ばかり気にしていて、みどりの

治療のことまで、頭が回らなかったよ」

 

「大丈夫よ、健太。体力もついて、職場の

体制も整えてするんだから。

健太はまだ、四十九日まで忙しいでしょう」

 

みどりの言葉に、健太はみどりの優しさを

感じていた。

 

楓が戻って来て、3人に報告をする。

 

「颯介がね、9月に結婚式を挙げる予定

らしいの。健太もみどりちゃんも出て

あげてね。ついでに東京観光も一緒に

しましょうね」

 

「お葬式のすぐ後に結婚式の話はどうかな」

 

哲也が言ったが、楓は平気だった。

 

「良いのよ、お母さんだって喜んでいるに

決まっているわ。そうでしょう、健太」

 

楓の言葉に一同うなずくしかなかった。

 

「でも、私は、身内でもないし・・・」

 

みどりがボソッと言うと、楓が言った。

 

「何言ってるのよ、みどりちゃん。家族も

同然でしょう。颯介も絵里香さんも、みどり

ちゃんにも来て欲しいって言ってたわよ」

 

自宅に戻った健太とみどりは、葬儀会館から

もらって来た組み立て式の小さな祭壇を、

仏壇の前に置いて、君江の骨箱と位牌と遺影

を並べて、富岡社長に貰った白い花を飾った。

 

二人は、祭壇の前で手を合わせる。

 

健太は、母親を失った喪失感が、君江が施設

に入った時よりも薄いように感じていた。

 

特養での看取りを精一杯できたからだろうか?

いや、違う。あの時は、この家に一人取り

残された想いが強かった。

 

今は自分の隣に、みどりが居てくれる。

みどりがいる安心感が、自分の心を支えて

くれているのだと、健太は感じていた。

 

しかし、みどりの心は揺れ動いていた。

 

健太!  気付いてる?

 

TO BE CONTINUED・・