339 姉からの提案 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

社会保険労務士・行政書士・認知症ケア准専門士のはまじゅんが、介護や認知症についておしゃべり。介護にかかわるすべての人に笑顔を届けます。

水曜日の午後3時ごろ、今度は渡辺さんが

やってきた。

 

「楓さん、おはぎを作ってきました。

少し、休憩してくださいね」

 

渡辺さんは、君江がまだ在宅で元気な頃は、

何度か一緒におはぎを作った話をした。

 

「渡辺さん、ありがとうございます。

それじゃあ、お母さんの分も私が

いただきますね」

 

楓がゲストルームに行くと、渡辺さんが

君江に話しかける。

 

「君江さん、78歳のお誕生日おめでとう

ございます。

今度の日曜日にバースデーパーティすることに

なってますからね。

 

皆でハッピーバースデーを歌いますから、

楽しみにしていてくださいね」

 

その時、君江の様子を見に来たスタッフが

声をかけた。

 

「佐藤さんのお身内の方ですか」

 

「いえね、職場の先輩だったんです。

それと、君江さんが在宅介護の間は、お話し

相手に時々、伺っていたものですからね」

 

渡辺さんの話を聞いて、スタッフが言った。

 

「佐藤さんは、人気があるんですね。

入れ替わり立ち替わり、

色々な方が面会に来て下さって」

 

義母の介護経験のある渡辺さんは、その言葉

の裏に、看取りプログラムに入っても、身内

でさえ面会に来ない、寂しい入所者が多い

ことを感じ取っていた。

 

「時々薄目を開けられるので、まだ聴覚は

しっかりしていらっしゃると思いますよ」

 

「そうなんですね。それじゃあ、昔の

思い出話をたくさんしますね」

 

渡辺さんは、清掃会社で一緒に働いていた

頃の話や、一緒に食事に行ったりした話を

色々と君江に語っていた。

 

楓が戻ってくると、渡辺さんは廊下で少し

楓に耳打ちしてから、帰って行った。

 

その日の夕方、健太が仕事帰りに特養に

着くと、ちょうど夜勤に入ったばかりの

哲也がいた。

 

「健太、楓さんは先に帰ったよ。

健太も一度うちのマンションでシャワーを

浴びて来いよ。楓さんが待っているから」

 

そう言われてみれば、昨夜はシャワー

どころか着替えもしていない。

男ばかりのむさくるしい職場だから許される

が、さすがにこの時期に、このままでは

まずいだろう。

 

健太は、哲也の言葉に素直に従う。

 

哲也と楓のマンションに着くと、楓がお風呂

にお湯を張って待っていてくれた。

 

「健太、疲れがたまっているでしょう。

ゆっくり湯船につかりなさいね。

それから、これ。昼間みどりちゃんが

着替えを持って来てくれたから」

 

楓が差し出した袋には、着替えが2日分

入っていた。

健太は、ゆっくりお湯につかって、着替えを

してさっぱりした格好になって出てきた。

 

「健太、はい、ビール」

 

「えっ、それはまずいだろう」

 

「ばかね。もちろんノンアルコールよ。

でも、飲むと疲れが吹っ飛ぶわよ」

 

姉の言い方が面白くて、健太は思わず笑った。

 

「それでね、健太。私からちょっと

提案したいことがあるの」

 

「なんだよ、改まって」

 

健太は、姉が用意してくれた餃子をつまみ

ながら言う。

 

「お母さんのお葬式の事なんだけど、

健太はどうしたいと思っているの」

 

健太は、箸につまんだ餃子を

落としそうになった。

 

「今から、葬式の話をするのか、姉ちゃん」

 

「健太、多分あなたはそう言うと思ったわ。

でもね、これはとっても大事なことなの。

哲也にも、今日来てくれた渡辺さんにも

言われたの。

 

二人で話し合って、早目に決めておいた方が

良いですよって。

 

病院のように、すぐに追い立てられることは

無いけれど、亡くなったら結局1日しか特養

にはいられないのよ。

 

それから探しているようだと、特養に迷惑が

かかるかもしれないでしょう」

 

健太!  姉貴は正解だよ!

 

TO BE CONTINUED・・