317 一人ぼっちのバースデー | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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5月の連休が終わって、健太の仕事も少し

ずつ忙しくなり始めていた。夏休みの8月中

に入居したいお施主さんたちの、注文や要望

が出始めている。

 

姉の楓からは、颯介の引越が無事に終わった

事、会社の借り上げアパートだから、電化

製品一式が整っていて、ほぼ体一つで引っ越

完了だった事などが、メールで知らされた。

 

健太は一つ、気になっていることがあって、

姉にメールする。

浩介夫婦に赤ちゃんが生まれるのに、

楓は手伝いに行かなくて良いのだろうか。

 

楓は、正式な出産予定日が9月15日で、

県庁勤めの浩介はしっかりお休みが取れる事、

千春の母の照美の若年性認知症の症状が、

落ち着いていて、生まれてくる赤ちゃんを

心待ちにしていると返事してきた。

 

「ははーん、さては姉貴、側にいると要らぬ

お節介を焼いてしまいそうだから、こっちに

来ていた方がちょうど良いってことだな」

 

姉御肌で面倒見のいい楓の性格から言えば、

側に居たらついつい口出ししたくなる。

 

千春の母親の喜びを奪ってはいけないという、

楓らしい配慮も感じられた。

 

楓の引越しの準備を考えながら、健太は47

歳の誕生日を18日に迎えた。

 

とは言っても、誰かが祝ってくれるわけでも

ない。去年の誕生日は、母親の君江と一緒に

寿司居酒屋丸栄でみんなでお祝いをしたが、

今回はそんな話も出ていなかった。

 

一人ぼっちのバースデーだなあ、とちょっと

健太がセンチメンタルになっていた時、

みどりからLINEが入った。

 

「健太、47歳の誕生日おめでとう。

しばらく仕事が忙しいから、お祝いが出来

なくてごめんね。

楓先輩の引越が終わったら、引っ越し祝い

を兼ねてお祝いしようね」

 

「みどり、ありがとう。

お祝い楽しみにしてるぜ」

 

返事を書きながら健太は、みどりの優しさが

心に沁みた。

 

第3土曜日は、グリーフケアの会だった。

 

認知症フェアの翌日、新聞で大きく取り上げ

られた効果もあって、問い合わせが殺到し、

この日は急遽、予約してあったレストランの

会場を大広間に変更した。

 

健太は、新しく入会してくれた人達一人一人

に声をかけて回った。

 

皆さん、家族を亡くしてから、こんな風に

宴会に参加したのは初めてだと言って、

喜んでいた。

 

「また、名簿を作り直さないといけませんね」

 

健太は、もう一人の世話人の市川さんに

笑顔で話しかけた。

 

「そうですね。私も問い合わせの電話が

ひっきりなしに鳴って、反響の大きさに

びっくりしましたよ」

 

一緒に参加していた高橋さんも、盛況振りを

喜んでいた。

 

5月が過ぎて、6月に入った最初の週末、

楓の引越の日が来た。

 

土曜日に、段ボールが大量に運ばれてきたが、

楓からの指示で、全て倉庫になっている部屋

に入れてもらった。

 

日曜日、10時頃に着くからと楓から聞いて

いたが、いくら待っても楓も現れなければ

荷物も届かない。

 

「途中で、渋滞にでもはまったのかなあ」

 

健太が心配していると、駐車場に車の停まる

音がした。健太が急いで玄関に出ると、

そこにいたのはみどりだった。

 

「みどり、なんで来たんだ?

手伝いに呼び出されたのか?」

 

怪訝そうな健太に、みどりも首を傾げながら

言った。

 

「金曜日に楓先輩から連絡があったのよ。

11時に健太の家に来て欲しいって」

 

健太! どうなってるの?

 

TO BE CONTINUED・・