294 久しぶりの午前様 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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社会保険労務士・行政書士・認知症ケア准専門士のはまじゅんが、介護や認知症についておしゃべり。介護にかかわるすべての人に笑顔を届けます。

3月4日土曜日の夕方、健太は新築戸建ての

家の引渡し前チェックのお客様を見送ると、

一度車で自宅に戻り、哲也の待つ

いつもの居酒屋に向かった。

 

いつもならカウンターに座っている哲也が、

今日は奥のテーブル席に座っていた。

 

「なんだよ、珍しいじゃないか、こんな席」

 

そう言いながら健太が座ると、哲也が言った。

 

「今日は、混み入った話になりそうだからな」

 

以前、哲也に母親の君江の今後について相談

した時は、居酒屋で話す話じゃないからと、

特養をTY、グループホームをGHと

イニシャルトークしたことがあった。

 

「確かにそうだな」

 

健太は苦笑いしながら、ビールを注文した。

 

「おばさん、ぎりぎりアウトだったって

みどりちゃんから聞いたぞ。すまないな。

俺じゃあどうにもできなくて」

 

みどりから哲也に、情報は流れていた。

 

「ああ、仕方ないさ。もともと俺が

甘かったんだから」

 

以前みどりや哲也からグループホームの話を

聞いた時に、母親の君江は既に要支援2

だったのだから、すぐにでもグループホーム

を申し込んでおけば、今回の入所に恐らく

該当しただろう。

 

「認知症は進行性の病気なんだから、

もっと先を読んで行動するべきだったよ」

 

ビールを飲みながら健太が言うと、哲也が

健太の肩を叩きながら言った。

 

「健太、そりゃあ無理って言うもんだよ。

少しでも長く、元気でいて欲しいと思うのが

家族だろう。

 

その家族が、病気が進行した先のことまで

考えて、冷静に準備を整えるなんて、

出来る人はまずいないさ。

 

俺達介護職の人間だって、介護家族には

そうやってアドバイスするけれど、いざ

自分の家族となったら、みんなアタフタ

しているんだよ」

 

中学・高校と同級生だった中村哲也に、

初めて母親の介護の件を相談して以来、

いったいどれほど哲也に励まされ、

助言されてきたことだろう。

 

健太は、今までの事を思い出して、

急に胸が熱くなった。

 

「哲也、本当にありがとう。あの日、俺が

同窓会で貰ったたった1枚の名刺を頼りに

電話して以来、ずっと俺を見捨てずに

付き合ってくれて、本当にありがとう。

 

俺が何とかここまで、おふくろの介護を

やってこれたのも、哲也のお陰だよ。

本当に感謝してる」

 

健太は半べそをかきながら、

頭を何度も下げた。

 

「おいおい、可愛い弟よ。泣くんじゃないよ」

 

哲也は健太の頭を撫でながら、こちらも目に

涙をいっぱいためていた。

 

「それにしても、年末の忘年会から、

怒涛の日々だったな」

 

それから二人は、年明けからの出来事や、

今までの介護の日々の事、中学や高校時代の

話まで、飲み歩きながら語り合った。

 

健太が、タクシーを拾って何とか自宅に

たどり着いた時は、午前1時を回っていた。

姉を起こさないようにと、そっと玄関を

開けたつもりだったが、楓は起きてきて、

ふらつく健太を部屋まで運んでくれた。

 

「まあまあ、随分飲んだわね」

 

「姉ちゃん、すまない。久しぶりに

飲み歩いたから、俺、フラフラだよ」

 

「そうね、健太。

お母さんのことがあったから、あなたずっと

飲みに行っても酔いつぶれないようにして

いたもんね。今日は、もう寝なさい」

 

「姉ちゃん、ありがとう。哲也はちゃんと

タクシーに乗って帰ったからな。

俺、本当に哲也が友達で良かったよ・・・」

 

ここまで言ったかと思うと、健太はそのまま

ベッドに倒れ込む。

 

楓は、手慣れた手つきで健太の服を

脱がせると、布団をかけて電気を消した。

 

「健太、おやすみ。今まで本当にありがとう。

お疲れ様でした」

 

健太!  今日はゆっくりおやすみ!

 

TO BE CONTINUED・・