287 姉の説得 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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社長から介護休業制度の取得を勧められた

2日後の土曜日、姉の楓が母親の君江の

介護をしに隣県のF市からやって来た。

 

健太は、コンビニで万引きして通報された

ことや、社長から言われたことなどを姉に

説明した。

 

万引きの件は、楓はケアマネのみどりから

聞いていたようだった。

 

「健太、仕事の事は私にはよく分からない

から、あなたが良いように決めなさい。

 

でもね、私の周りにも親の介護のために仕事

を辞めた人がいるけど、それは大変そうよ。

 

24時間365日一人で見守るなんて、

簡単ではないのよ。

 

3か月何て、あっと言う間に過ぎてしまう。

その間に、グループホームに入れなかったら、

健太どうするの?」

 

前回は、みどりに言われて我慢していた楓も、

今回ばかりはしっかりと話そうと思っていた。

 

「それにね、あなたが一人で見ている時に、

何かあったとする。例えば、ちょっと目を

離した隙に、また居なくなっちゃうとか。

そして、事故や事件にお母さんが巻き込まれ

たとする。

 

そういう時、世間は何て言うか知ってる?

 

ケアマネジャーは一体何をしていたんだ。

一人で見るの何て無理なんだから、どうして

もっと早く施設入所などの手続きをして

いなかったのか。

介護職の怠慢じゃないのかってね。

 

マスコミに面白おかしく書き立てられたら、

みどりちゃんの一生の問題になるのよ。

 

あなた、今までみどりちゃんに散々世話に

なっておきながら、最後の最後に、そんな

迷惑がかけられるの?」

 

気性の激しい姉にしては珍しく、声の

トーンを落として静かに話しかけてくる。

 

健太は、かえってその声に、

姉の真剣さを感じた。

 

「姉貴、でも、前にみどりが言っていた。

グループホームだって、急に入れる訳

じゃないと。だったら、結局、俺が仕事を

休むしかないことになるよな」

 

「健太は、仕事を休んでも良いと思って

いるの?本音を言いなさいよ。

 

私だって、決算期を控えているこの時期に、

長期に休みますなんて会社に言いにくい

んだから、健太はなおさらでしょう」

 

楓は、健太がこの仕事に誇りをもって

打ち込んできたことを知っている。

そんなに簡単に休める訳もない。

 

しかも、今は副課長という責任ある立場だ。

年度末が、建設業にも大変な時期だという

事は、楓も良く分かっていた。

 

長い沈黙の後で、健太はやっと口を開いた。

 

「姉貴、俺もっと軽く考えていたんだ。

おふくろが、こんなに立て続けに徘徊する

なんて思ってもいなかったんだ。

 

先月の様子だったら、まだまだ家で

過ごせる、大丈夫だと思っていた。もう

少し、家で一緒に過ごしたいと思っていた。

 

でも、今は、仕事とおふくろの介護と

どっちを取るかって言われたら、

おふくろには申し訳ないけど、この時期に

仕事を放り出すことはできない。

 

俺の考えが甘かった。

みどりに言われた時に、グループホームの事

を、前に進めるべきだった」

 

健太は、高橋さんの言葉を思い出していた。

天国の父親に代わって話してくれた言葉を。

 

「もう肩の荷を下ろして、

自分の幸せを考えてくれ」

 

きっと、親父もおふくろも、自分の決断を

許してくれるだろう。

仕事一筋で、健太と同じ建設業だった父親

なら、分かってくれるはずだ。

 

健太は、やっと姉の楓に決意を話した。

 

「姉ちゃん、グループホームにおふくろを

入れる手続きを進めたいと思う。

姉ちゃん、ごめんよ」

 

「馬鹿ね、健太が謝ることじゃないでしょう。

今まで、お母さんのことを本当に一生懸命

面倒を見てくれてありがとう。

 

健太、ありがとうね」

 

楓は、健太を抱き寄せると、幼い頃にそう

したように、健太の頭を撫でながら言った。

 

健太! よく決心したね!

 

TO BE CONTINUED・・