99 帰り道で迷子? | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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45歳の佐藤健太は、75歳の母親君江と

二人暮らし。君江の要介護状態区分は、

要支援2で1割負担だ。

 

認知症の症状が出始めた君江は、4か月

ほど前から、「デイサービス プレジール」

に通い始めていた。

 

火曜日と木曜日にデイサービスに通い、金

曜日は、職場の元同僚の渡辺さんが、話し

相手に来てくれる。

 

健太は、土曜日出勤の日もあるが、月に

1回は、隣県のF市に住む姉が土日と

泊りがけで来てくれる。

 

物忘れがあったり、冷蔵庫の中に賞味期限

切れの食品があふれていたりと、認知症の

初期症状は色々出ているが、家事をこなし

ながら、健太と君江の平穏な生活が続い

ていた。

 

その日、健太の同級生のケアマネジャー

田中みどりは、健太の家の近くのスーパー

安西に駆け込んだ。

 

「おじさん、何か食べるものある?」

 

「おいおい、みどりちゃん、うちは

スーパーだよ。食べるものならいっぱい

あるさ。

何だい、また昼飯食べてないのかい?

もうすぐ3時になるぞ」

 

子供の頃から知っているスーパー安西の

店長は、安西のおじさんと言われて慕わ

れていた。

 

「もう、おじさん、意地悪ねえ。お弁当は

もう売り切れ?」

 

「こんな時間まで残っていたら、うちの

商売はあがったりだよ。おはぎならそこに

残っているよ」

 

安西のおじさんが示したところに、おいし

そうなおはぎが二つ入ったパックが2個。

 

「やったー!これ2個もらうね」

 

みどりがレジに行こうとすると、おじさん

が呼び止めた。

 

「みどりちゃん、健太のおふくろさん、

よく知っているのか?」

 

「うん、君江おばさんでしょう。

おばさんがどうかしたの」

 

みどりはの心に不安がよぎった。

 

「いやー、なにね。さっき買い物に来て

帰って行ったんだが、いつもと逆方向に

歩いて行ってね。

そのうち、また戻って来たと思ったら、

また家とは違う方に曲がって行ってね。

何度も行ったり来たりしてるもんだから、

声をかけたんだが、誰かと待ち合わせだ

と言うんだよ。

それで、まあ、そのままにしたんだ」

 

安西のおじさんが話し終わらないうちに、

みどりは自分のバッグとおはぎのパック

をおじさんに渡した。

 

「おじさん、君江さん、最後はどっちの

方に歩いて行ったの?」

 

安西のおじさんの言った方角に、みどりは

走り出した。その方角は栄町公園の方角だ。

公園の裏手は林が広がっている。

 

みどりは、走りながら祈った。

「おばさん、お願いだから遠くまで行か

ないで・・・」

 

公園の正面にある噴水の横のベンチに

君江は座っていた。あちこち歩いて

疲れたのだろう。

顔色に生気がなかった。

 

みどりは、君江を見つけると、ゆっくり

と君江の正面に近づいて、膝まずいて

君江の視界に入ってから声をかけた。

 

「おばさん、こんにちは」

「あら、みどりちゃんね」

 

私のことが分かるなら大丈夫!

とみどりは思った。

 

「おばさん、寒い中お散歩ですか。私、

今からスーパー安西に行くんですけど、

おばさん、一緒に行ってくれますか」

 

君江がうなづいたので、みどりは君江の

手を取って歩き始めた。

手が氷のように冷たい。

 

スーパー安西の駐車場に着くと、みどりは

君江を自分の車に座らせて、急いで店内に

入った。安西のおじさんが心配そうな顔を

している。

 

「おじさん、ありがとう。君江おばさん、

見つかったから。今私の車の中。おはぎと

お茶買っていくね」

 

みどりは、車に戻ると、温かいお茶を君江

に渡した。余程喉が渇いていたのだろう。

君江はゴクゴク飲んだ。

 

「おばさん、私ね、美味しいおはぎを

買ったのよ。

おばさんの家で一緒に食べても良い?」

 

君江の家に着くと、みどりは応接間を

暖めて、君江を座らせた。温かいお茶

を入れて、おはぎを持って一緒に座った。

 

みどりは、君江が喉に詰まらせないように、

おはぎを箸で小さく切る。君江は少しずつ

口に入れる。

 

「美味しいおはぎね」

 

やっと、君江の顔に笑顔が戻った。

 

みどりは、自分もおはぎにパクつきながら、

考えを巡らせる。次の仕事の時間が迫って

来るが、このまま君江を一人で置いていく

こともできない。

 

みどりは、トイレに行く振りをして応接間

を出ると、健太にLINEをした。

 

「おばさんがスーパー安西の帰りに迷子に

なった。私が見つけて今は家にいる。

健太か渡辺さん、来てもらえない。私仕事

がこの後あるの」

 

すぐに健太から電話があった。

 

「みどり、おふくろ迷子になったのか?」

 

「健太、詳しく話していられないの。

このまま一人で置いてけないから、誰か

来て欲しいの。ごめんね」

 

みどりの困った様子に、健太は気が付いた。

 

「ごめんな、みどり。渡辺さんにすぐに

連絡してみる」

 

健太! 急げ!

 

TO BE CONTINUED・・・