80 訪問調査の日 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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金曜日、要介護認定申請の訪問調査

の日が来た。

 

45歳の佐藤健太は、同級生のケア

マネジャー田中みどりに言われた通り、

75歳の母親の君江に、明日は75歳

の人の健康調査で家庭訪問があると

前日に伝えてあった。

 

その時、姉の楓が立会人としてお昼に

来るからと言うと、予想通り、一人で

大丈夫だ!と君江は言った。

 

これまた、みどりに聞いた通りに、最近

多い詐欺師と間違われないように、必ず

家族の立ち合いが必要なんだ!と説明

すると納得してくれた。

 

金曜日の朝は、訪問調査は応接間で

するらしいと伝えた。やはり君江は、

片付けとかないとね!と言った。

 

健太はいつも通り出勤した。

今日は市外の現場で、帰りが遅くなる

はずだから、姉が泊まってくれるのは

助かると、健太は思っていた。

 

12時ごろ、楓は到着した。

両手に荷物をいっぱい抱えている。

 

「お母さん、ただいま」

 

楓が玄関に入ると、君江が迎えに出た。

 

「あらまあ、ずいぶん大荷物ね」

 

「お昼に、漁港の海鮮丼買ってきたのよ」

 

楓は、地元で買ってきた海鮮丼を出して、

早速君江と昼食を始める。

 

「やっぱり、漁港が近いとお魚がおいしくて

良いわね」

 

美味しそうに食べる母親を見て、

楓は嬉しかった。

 

食事の後片付けをしていると、君江が楓に

聞いた。

 

「何を着たらいいと思う?」

 

君江は着替えるつもりらしい。

家庭訪問とはいえ、お客様が家に来るのは

めったに無いことだった。

 

「この前、弥生病院に着て行ったのに

すれば。

あれ、とっても似合っていたわよ」

 

君江は自室に戻ったが、なかなか出て

こなかった。

ひょっとして、と楓は思って、母親の部屋

に入った。

君江は、洋服ダンスの扉を開けたまま、

ジッと考え込んでいた。

 

楓は、明るい色のブラウスを手に取ると、

「はい、お母さん」と君江に渡した。

 

君江が、ばつが悪そうな顔をしているので、

楓は明るく言った。

 

「おかあさん、お化粧もしようよ。

たまにはきれいにしなくっちゃね」

 

君江は日頃からほとんどスッピンなので、

化粧品も無い。楓は自分のバッグを取りに

行くと、君江にファンデーションと口紅を

塗った。

 

親子でワチャワチャ話しながらお化粧を

する。いったい、何十年ぶりだろうか?と

楓は思った。

 

午後1時半を過ぎて、君江はそわそわ

しだした。

楓は、家庭訪問の人が場所が分からないと

いけないからと言って、駐車場に出た。

 

ポケットには、みどりに言われた紙を

ちゃんと持っていた。

 

訪問調査の約束の2時の少し前に、車が

駐車場に入った。

楓が頭を下げると、調査員の女性が車から

降りて、頭を下げた。

 

「こんにちわ。佐藤君江さんのご家族の方

ですか。訪問調査員の鈴木美智子です。

今日は、よろしくお願いします」

 

「佐藤君江の長女の榊原楓です。

今日はよろしくお願いします」

 

と言いながら、楓は調査員に1枚の紙を

差し出した。それには、君江が75歳の

健康調査のための家庭訪問だと思っている

ことや、認知症の症状が出始めているが、

本人には自覚が無いことなど、みどりに

言われたことが書いてあった。

 

調査員の鈴木さんは、さっと目を通すと、

 

「わかりました。それでは、75歳の家庭

訪問というお話で進めますね」

 

と、笑顔で言ってくれた。楓はホッとした。

 

「あの、それから、一緒に住んでいる弟は、

今日は仕事の都合で立ち会えないので、F市

から私が来ました。日頃の様子は、こちら

に弟から預かっています」

 

楓は、忘れるといけないと思って、先に君江

の症状の用紙も出した。

 

鈴木さんは、目を通しながら、うんうんと

うなづいていた。

 

「わかりました。こちらは、後で報告書を

書くときに参考にしますから、いただいて

いきますね」

 

鈴木さんは、バッグに紙をしまうと、

玄関に向かって歩き始めた。

 

玄関には、母親の君江が立って待っていた。

 

「こんにちわ。調査員の鈴木美智子です。

今日は75歳の方の健康調査のために、

家庭訪問させていただきます。

よろしくお願いします」

 

「お待ちしていました。どうぞ、奥へ」

 

君江は、ニコニコしながら応接間に案内

する。

これなら、大丈夫だ!と楓は安心した。

 

健太! うまくいきそうだよ!

 

TO BE CONTINUED・・・