72 将来への不安 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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母親君江の病院受診がなんとか無事に

終わった日、午後からの出勤だった

健太は、帰宅したのが10時近かった。

 

いつもなら起きている時間だが、今日

一日朝からずっと出かけていたせいか、

母親はもうすでに横になっていた。

 

台所のテーブルの上に、姉の楓の文字

で「健太、お疲れ様」と書かれたメモ

があり、一緒にお寿司の折詰が置いて

あった。

 

「姉貴、ありがとな」

 

健太が寿司をつまみ始めた時、スマホ

が鳴った。楓からの電話だった。健太

は寿司の折詰を持って、急いで自分の

部屋に入った。

 

「姉貴、今日は本当に助かったよ。

寿司のお土産もごちそうさま」

 

開口一番、姉にお礼を言うと楓が

言った。

 

「電話が遅くなっちゃってごめんね」

「今、俺も帰ってきて、寿司食べてる

ところだよ」

 

楓は、今日の診察結果や、半年後に

また受診する予定など、色々と報告

した。

 

「認知症の初期だから、要介護認定が

出たら、デイサービスとか利用して、

なるべく規則正しい、適度に刺激のある

生活にするのが良いんですって」

 

「ああ、俺もそうしようと思ってる」

 

「それからね、アルツハイマー型認知症

は年単位で進行するから、急激に症状が

進むことは少ないそうだけど、あなた

一人でお母さんの面倒見ていけるの?」

 

楓は将来の不安を口にした。

 

「姉貴、大丈夫だよ。世の中には一人で

親の介護している人はごまんといるんだぜ。

それにみどりだって色々協力してくれるし」

 

健太は、明るく言った。

 

「そう、それならいいけど。しばらくは今

の状況が続くと思うけど、健太、無理は

しないでね。何か辛いと思ったら、すぐに

連絡してね。私もできるだけのことはする

からね」

 

周りから認知症の情報を色々聞いている

ので、楓は健太の明るさにかえって不安を

覚えた。

 

「姉貴、ありがとう。でも姉貴だって颯介

が就職してやっと安心できたところだろう。

そろそろ自分の人生楽しんで欲しいんだ」

 

シングルマザーで苦労してきた姉のことを

思うと、健太はできるだけ楓には負担を

かけたくないと思った。

 

「健太、ありがとう。でもね、浩介と颯介

が心配してね。

あの子たち、自分たちが大学行くために、

お母さんが無理して73歳まで働いてくれ

てたこと知ってるから、自分たちのせいで

認知症になったんじゃないかって」

 

「馬鹿だなあ。そんなこと絶対関係ない

からな。俺はみどりからちゃんと聞いてる

から。

認知症は脳の病気で、誰でもなる可能性は

あるんだから。それが、たまたまおふくろ

が少し早めになっただけだから。

二人によーく言っておいてくれよ」

 

「うん、わかった。ありがとう。それでね、

この前言ってた認知症の講座、ちょうど

日曜日のコースがあったから、浩介と颯介も

一緒に行きたいって言うから、3人で

申し込んでおいたわ」

 

就職したばかりの颯介と、入社3年目の浩介

が、遊びたいだろう日曜日にわざわざ認知症

の講座を受けてくれる。

健太はその気持ちが嬉しかった。

 

「それにしても、健太、みどりちゃんが

ケアマネで良かったわね」

 

「うん、本をただせば、中村哲也がみどり

を紹介してくれたんだから、哲也に感謝だな」

 

「哲也って、あの悪ガキだった哲也のこと?」

 

「そうなんだよ。あいつ今、特別養護老人

ホームってところに勤めているんだよ。

信じられないだろう」

 

「へーっ、人は見かけによらないというか、

まあ、30年以上経てばみんな変わるわよね」

 

楓は、昔を懐かしんでいるようだった。

 

「それで、姉貴。みどりは何か言ってたか?」

 

「そうそう、今日中に市役所に要介護認定の

申請書を出すって言ってたわ」

 

さすが、みどりは仕事が早い!と健太は思った。

 

「そうか、じゃあ、来週あたり訪問調査の日程

の件で電話が入るわけだな」

 

「私は、午後からならいつでも大丈夫よ。会社

のみんなにはもう話してあるから」

 

女性の多い会社は、そういう話がざっくばらん

にできて良いなあ、と健太は自分の会社との

違いを感じた。

 

「それじゃあ、訪問調査の日程が決まったら、

また連絡するな」

 

楓との電話を切ると、11時を回っていた。

みどりに電話しようかと思ったが、さすがに

この時間では遅いと思って、健太はLINEに

書き込んだ。

 

「今日はありがとう。おにぎり、うまかった。

色々と助かったよ。また、訪問調査の日程が

決まったら連絡します」

 

すぐに既読にならなかった。

もう、寝ているのかもしれない。

 

健太! ちょっと寂しい?

 

TO BE CONTINUED・・・