眼福とはこのことを言うのだろう
か。歌舞伎史上最大だった京都・
南座の27日午後のお練りから一晩
過ぎても、まだその余韻が続く。
花形、若手役者ら69人が勢ぞろい
して祇園を練り歩く光景は圧巻の
絵巻模様だった。歌舞伎の楽しみ
を知って、もう15年以上過ぎたが
、東西のどの役者も笑顔がはじけ
、見る側の祝祭気分をこれほど高
めてくれたのは初めてで、どの役
者にも声をかけたくなった。古い
世代からバトンタッチされた役者
らが、南座新開場を機に、一門の
枠を超えて躍動してくれる予感が
高まった。
待ち遠しかった新開場である。こ
の劇場には様々思い出がある。関
西で初めて歌舞伎を見たのが玉三
郎と獅童の舞踊公演だった。その
時玉三郎が踊った鷺娘の美しさに
見ほれて、しばらく声も出なかっ
た。仁左衛門の「封印切り」や「
じいさんばあさん」での硬軟の役
柄を使い分ける見事さ。亡き勘三
郎の襲名披露公演での「義経千本
桜川連館」の躍動感。勘九郎の襲
名公演で、父の訃報を聞かされた
直後の涙の口上……。どれも鮮明
に場面がよみがえる。
お練りには重鎮の菊五郎、白鸚、
吉右衛門、仁左衛門、梅玉・魁春
兄弟は出なかったが、この日のあ
いさつの舞台では元気な顔を見せ
た。午後2時半からお練り開始の
合図があり、時蔵を先頭に玄関階
段を降り始めた。軒下に陣取って
いたのだが、いきなり人気役者ら
続いたのに目を奪われた。海老蔵
、猿之助、幸四郎、愛之助ら。一
番ひいきの菊之助が目の前を横切
った時は、思わず「音羽屋」と声
をかけていた。松緑、中車、弥十
郎らが手招きして、続いたのは中
村屋の勘九郎・七之助兄弟。二人
が幼い奈緒也、長三郎兄弟の手を
引く。勘三郎もきっとどこかで喜
んでいる気にさせる健気さだ。
沿道から一番歓声が上ったのは、
海老蔵だが、まだ中学生ながら身
長172センチもあるといい、高
貴な気品さえ放つ染五郎には女性
ファンから絶叫ともいえる歓声と
ため息が漏れた。同世代の団子や
鷹之資らと恥じらいながら、談笑
していたが時折、きりっとした顔
になった時は「勧進帳」の義経の
ようにも映る。正月の襲名披露で
は声変わりもあってか、悔いが残
ったという。南座で演じる義経に
は万を辞している、と毎日新聞の
インタビューで答えていた。期待
が高まる。
上の世代は、役者同士の確執や嫉
妬が色々聞こえた。「共演NG」
も伝わってきたが、今回のお練り
では、40歳台以下の役者らが、家
系や名乗る屋号を超え、無邪気や
表情で談笑し合う風景を見せてく
れた。例えば、海老蔵と猿之助、
幸四郎と中村屋兄弟、菊之助と愛
之助ら……。お互いの実力を十分
知ったうえでの交流を深めたいと
いう胸中が読み取れようでもあっ
た。
海老蔵はよほどうれしかったのか
、どの役者にも声をかけてカメラ
で自撮りしていた。すぐにブログ
にアップ、菊之助らのサイトにも
瞬時に送信された。梅枝と共に女
形でめきめき実力を上げている右
近は南座屋上で菊之助とうれしそ
うに自撮りした写真をアップして
、喜んでいた。
ちょうど、毎年国立劇場で正月公
演をする菊五郎率いる音羽屋一門
は来年正月に「姫路城音菊礎石」
を披露することが発表された。姫
路城が舞台になる珍しい復活通し
狂言で、今から楽しみである。
花形役者と次世代の若手が中心に
なったのお練りは、終始フレッシ
ュな息吹きに包まれ、沿道のファ
ンから「今度は芝居を見たい」と
いう声があちこちで聞こえてきた
。彼らの成長を見られるということ
は、それだけこちらが年を重ねる
ことになるが、それは残りの生涯を
通した楽しみになりそうだ。
【2018・10・28】
(写真は新装なった南座、顔見世
のまねき板、口上の絵、幸四郎、
お練りのスタート、染五郎、京都
高島屋ロビーの勧進帳の幸四郎弁
慶の人形=一部は毎日新聞やファ
ンのツイッターなどから転載)













