憲法学者いない有識者会議の欺瞞 | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

ずっと自民党政権の「下駄の雪」

と揶揄されてきた公明党がまた政

府に擦り寄った。敵のミサイル発

射拠点をたたく反撃能力の保有を

容認、その保有が政府の安保3文

書に盛り込まれることになった。

今月には政府の有識者会議が「保

有不可欠」とする報告を提出、憲

法が定める「専守防衛」が戦後初

めて骨抜きにされることになった

が、公明、有識者会議はいずれも

政府の「提灯持ち」のような組織

であることを露呈した。特に有識

者会議はあたかも第三者機関のよ

うな客観性を振りまく罪深さがあ

る。

同会議は政府のお気に入りの学者

、エコノミスト、ジャーナリスト

ら10人を揃えており、ことさら有

識者を名乗る欺瞞性を見過ごすわ

けにはいかない。最も指弾される

べきは、最重要の検討項目である

べき「憲法への抵触」について是

非を判断すべき憲法学者が一人も

いないことだ。世論の批判をかわ

すために、客観性を担保する目的

で起用されたように見えるのがメ

ディア界のメンバーである。「御

用新聞」である読売からは山口寿

一社長、日本経済新聞からは喜多

恒雄元会長は予想された顔ぶれだ

。朝日からの船橋洋一元主筆は外

信畑出身で、政府に経済安保政策

を提唱する「御用記者」の一人で

ある。他のエコノミストや財界人

も国の安全保障政策を論じる資格

があるのか疑わしい。

有識者会議が今回まとめた報告書

は政府、大学、民間一体の軍事研

究を要求している。長年学術界が

自らタブー視してきた防衛力強化

につながる研究を進めるよう求め

た文言には、思わず絶句してしま

った。地方自治体に自衛隊が港湾

、空港を使用することに抵抗があ

る点についても、有事の利用を求

めている。

有識者会議はさらに踏み込んで、

現在対GDP1・09%の防衛費を

2%にするため縦割り行政打破ま

で提唱した。研究、公共インフラ

、サイバー安全保障、同志国の軍

隊への武器類供与の4分野を対象

に他省庁が防衛省に協力する予算

配分を提案したのである。政府が

既に閣議決定した「武器輸出3原

則」見直しについても追認し、「

制約をできる限り取り除き、積極

的に他国に移転すべき」とまで明

記した。

政府の防衛力強化にお墨付きを与

えるだけでなく、敵国のミサイル

発射拠点をたたく反撃能力の保有

を「不可欠だ」と保有を既成事実

化する動きにエールまで送った。

有識者は本来、この国が再び軍事

国家になり、戦争をすることがな

いよう歯止めをかけるのが、使命

のはずだ。それが今回のメンバー

は反対に政府の「応援団」に堕し

てしまった。約320万人の戦争

犠牲者を生んだ歴史の教訓を忘却

した輩に安全保障を口にする資格

はない。

ロシアのウクライナ侵攻に便乗す

るかのように、政府は危機感をあ

おり、あたかも反撃能力の保有が

国際常識のようにアピールする。

しかし、そもそも国際法が「先制

攻撃」を禁じていることを忘れて

はならない。敵が攻撃に着手した

ことをどう認定するのかという根

本について、誰も明確に説明でき

ないままだ。国際法が専門の松井

芳郎・名古屋大名誉教授が大いに

傾聴に値するコメントを朝日新聞

(25日付)に寄せていた。

「日本が敵基地をした際、相手か

らの武力攻撃を証明できなければ

、日本が侵略者になってしまう」

「攻撃の仕方が多様である以上、

着手のあり方も多様で、具体的に

定めるのは難しい」

武力攻撃の定義ができないままの

先制攻撃などあってはならない。

「台湾有事」予想や北朝鮮のミサ

イル発射で危機ムードをあおるば

かりの前のめりな防衛論議に一段

と警戒感を高めたい。


     【2022・11・26】