解散風が収まる気配がない。安倍
晋三首相は連日、麻生太郎財務相
や甘利明元経産相と会合を重ね、
風をあおっているようにさえ見え
る。メディアが河井克行夫妻の事
件の責任を問う報道を繰り返して
も、国会は閉会中で追及の場もな
い。ほくそ笑む首相の顔が浮かぶ
。頭の中では起死回生の一手を練
っているはずだ。それは緊急事態
条項強化による権力集中を盛り込
んだ改憲狙いの解散だろう。東京
のコロナ感染者数が拡大する中、
政府の強権行使を望む声も高い。
そんなコロナの恐怖を政治利用す
る思惑を隠す解散に警戒を怠って
はならない。
自民党本部から河井夫妻に1億5
千万円が流れた選挙資金の解明に
検察は及び腰に見える。本来なら
河井夫妻逮捕と同時に党本部の捜
索に着手すべきだったのに、見送
られた。現検事総長の定年から逆
算しても、遅れれば遅れるほど、
捜索は難しくなり、事件は河井夫
妻の立件にとどまり、矮小化され
かねない。
それでも安倍首相はいつ検察の追
及が自分に向けられるか気が気で
ないだろうが、検察捜査は常に世
論の動向に左右される。自民党内
でも首相批判が高まらなければ、
直接「安倍辞任」に直結する党本
部捜索は見送られる可能性もある
。有志の検察OBらは今回、党本
部による公選法上の買収資金交付
罪での立件に期待する。今は政権
と検察の究極のせめぎ合いだ。
仮に秋まで政権が延命した場合、
衆院議員の残された任期は1年を
切り、総裁選などの政治日程から
安倍首相は自ら解散できなくなる
。野党が臨時国会の開会を要求す
るのは必至だが、首相は2017
年の秋の臨時国会冒頭解散の成功
体験を踏まえ、再び同じ手で打っ
て出る公算が強い。それは、臨時
国会での河井事件の追及回避がで
き、コロナの補正予算がすでに10
兆円の予備費が自由に使えるから
である。
通常国会の閉会はそこまで見越し
たうえでの深謀だったわけで、今
後どんなスキャンダルが飛び出し
ても、解散リセットで回避できる
。もし、選挙で与党が大幅に議席
を減らしても、まだ政権を維持で
きる議席は確保できるという読み
もある。解散風が日増しに強まる
のは、そんな背景がある。
首相が解散の大義に改憲を掲げ、
その目玉に「緊急事態下の権力集
中」を盛り込むとみられるのは、
有権者にそれを受け入れるとみら
れるの素地があるからだ。4月7
日、人の移動や集会の自由の制限
ができる緊急事態宣言を出された
翌日の世論調査(毎日新聞)では
実に72%の人が「評価する」と答
え、「評価しない」は20%にとど
まった。
自民党が2018年に発表した改
憲4項目の一つである「緊急事態
対応」には「内閣緊急令」が発動
でき、私権の制約ができ、国会が
機能できなくなり言論統制も可能
になる。かつて第二次大戦以前、
ナチスがこの権限を行使してヒト
ラーの専制政治が可能になった。
「緊急事態条項」が国を破滅に向
かわせる導火線になったのである
。
「9条改憲」に行き詰まった安倍
首相がコロナへの恐怖によって政
府の権限強化を有権者が受け入れ
やすい素地を見逃すはずがない。
安倍首相の成蹊大の恩師である加
藤節氏(政治哲学)は小中学校一
斉休校を決めた安倍首相を危ぶむ
(3月31日毎日新聞インタビュー
)
「この措置が改憲に向けた『実験
』の可能性がある。緊急事態を宣
言をしたら国民はどう動くかのを
確かめるためのね」
確かに、今一度あの強権行使の検
証が不可欠だ。
【2020・6・30】