言葉だけを聞けば、「そんなに厳し
いのか」と思わすが、実はそれがポー
ズに過ぎないのがTPP(環太平洋経
済連携協定)をめぐる日米交渉だ。多
くのメディアがずっと「ぎりぎりの交
渉が続いている」と伝える中身を吟味
すると、焦点のコメ、牛豚肉などのほ
か自動車でも、日本は譲歩ばかりで得
るものがほとんどないことが判然とす
る。このままの方向での決着を許せば
、国内農家は壊滅的打撃を受ける恐れ
が高まる。一体何のための交渉か、厳
しく監視しなければ、取り返しのつか
ないことになる。
いったん中断していたかに見えた、
日米交渉は水面下で、今月下旬までに
、大枠で合意することが決まっていた
ことを推測させる。
例外なき関税撤廃を前提とする交渉
には加わらないと国民向けに説明して
いた政府は、いつの間にか現在38・
5%の米国産牛肉の関税について、10
%にする意向を示し、豚肉では1㌔最
大482円の関税を何と50円までに引
き下げる方針を打ち出していたのであ
る。
また米国産コメも特別輸入枠を用意
、米国が主張する年間約20万㌧をどれ
だけ減らせるかという折衝が続き、押
されっぱなしの情けない有様だ。
ひたすら米国の権益に奉仕するよう
に映る基本姿勢は農産品にとどまらず
、日本が最も権益を拡大すべき自動車
でも、完成車の輸出にかかる現在の2
・5%の米国関税を撤廃するどころか
、10年以上もかけて廃止を目指すとい
う。米国にまるで子供扱いされている
ような内容である。
一連の交渉で、最大の問題は交渉過
程がほとんど公表されず、秘密交渉に
なっていることだ。国会が政府の秘密
交渉を認めような法的根拠はないはず
だ。米国では大統領に強力な通商交渉
権を与える法案の成立は与党民主党の
慎重姿勢で難航している。政府の秘密
交渉に異議をとなえない日本の野党や
政府広報化しつつあるメディアと際立
った違いがある。
米国主導のTPP交渉がこのまま合
意すれば、食糧自給率が4割から2割
以下に落ちる農業分野だけでなく、医
薬品分野、知的財産の著作権など一挙
に米国の巨大産業が日本の市場になだ
れ込んできて、日本市場が弱肉強食型
にさらされるのは必至である。
今月末の日米首脳会談前に、日本の
権益を守らないまま、オバマ米国大統
領に土産を持っていくように見える安
易な妥協を進める政府に、各分野から
声を上げなければ、必ず禍根を残すこ
とになるだろう。
【2015・4・20】