自分の醜悪な姿をどれだけ自覚して
いるのか。産経新聞の加藤達也・前ソ
ウル支局長が首相官邸を訪ね、安倍晋
三首相から「ご苦労様でした。体に気
をつけて」とねぎらわれたのは、政権
の庇護の下に入るような記者倫理にも
とる行為に見えた。一方で、自民党は
あすにもテレビ朝日幹部を呼び出し、
政府批判をただすという。二つの事象
を通して、政権がメディアに対し、露
骨な形で「懐柔とムチ」を使い分け、
言論活動を分断させる意図が透けて見
えてくる。
加藤前支局長の配信記事は記者の基
本動作を怠った内容だった。韓国のパ
ク・ウネ大統領の行動を憶測で報じた
男女関係を思わす現地のスキャンダル
記事の真偽を、自ら確認作業を十分に
せず、そのまま引用しただけだった。
憶測記事に過ぎないという負い目があ
ったのか、産経本紙には掲載されず、
ウェブ上だけの掲載だったのはそんな
卑屈さの表れだろう。
いくら自国の大統領を貶める記事と
ても、韓国政府の対応も大人気なかっ
た。自国へのの特派員を十分な根拠な
く拘束したのは、かえって民主主義の
未成熟さを感じさせ、過剰な対応がむ
しろ憶測を広げた。
それにしても、裏付けもとらず、た
だ引用だけで特派された国の指導者の
評価を落とす記事を配信した加藤前支
局長は内心「しまった」と後悔してい
るのではないか。とても日本新聞協会
が言論の自由を掲げて処分撤回を求め
声明を出すような問題ではない。
そんな加藤前支局長を安倍首相がわ
ざわざ官邸に呼んで、恩着せがましく
慰労したのは、政府寄りの論調が明確
な産経新聞と改めて政治的価値観を共
有したかったからだろう。いわば「懐
柔」行為で、そんな場にのこのこ出か
けていく加藤前支局長の心底が見えた
ようだった。安倍政権の韓国へのけん
制に自分が道具扱いされていることに
気づかないとしたら、記者失格だろう
。
ヘイトスピーチのように毎日、中韓
を激しく攻撃する紙面づくりが目立つ
系列紙「夕刊フジ」に両国関係者が強
く反感を抱くのは当然かもしれない。
日頃の産経グループの記事作りが、中
韓と友好関係を築く支障になるどころ
そんな常軌を逸した紙面であることを
どれだけ、読者は分かって読んでいる
のか。いつも疑問がわいてくる。
一方で、メディアへの圧力で見逃せ
ないのは、「公平中立」を求めてメデ
ィアをけん制する自民党政権である。
例えば「報道ステーション」での古賀
茂明氏のハプニング発言はこうした事
態を招くことは当然予想されたことで
ある。あってはならないことだが、必
ず政権側は失態を口実に圧力をかけて
くるものだ。テレビ朝日経営幹部、古
館キャスター、古賀氏のいずれも番組
を守る自覚に欠け、政権の介入を許す
のは、厳しく言えば自業自得である。
言論への圧力は、第一次安倍政権時
代から持っている特性であると言って
もよい。放送法を口実に露骨に介入す
る政権党に対峙できるのは、一つ一つ
の事実を着実に積み上げながら番組を
構成し、視聴者の信頼を強めるしか、
ほかに道はない。放送法第3条の「(
法律による権限に基づく場合でなけれ
ば)、何人からも干渉され、または規
律されることはない」を根拠に、ムチ
のように、次々打たれてくる牽制をか
わし続ける強い覚悟が求められている
。
【2015・4・16】