愛に関する短いフィルム [DVD]
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キェシロフスキ監督のテレビシリーズ「デカローグ」全10話の中の1編、第6話「ある愛に関する物語」 の劇場映画版。


19歳の郵便局員、トメクは、出征中の友人の母親のアパートに間借りしていました。彼は、毎晩8時半、向かいのアパートの女流画家、マグダの部屋を覗いていました。次々と違う男を部屋に連れ込むマグダに、トメクは、繰り返し、無言電話をかけていました。彼女に会いたくて、郵便局に来させるための通知を偽造したり、彼女の部屋まで通うために牛乳配達のアルバイトを始めたりするトメクですが...。


テレビシリーズよりも約30分長くなり、ラストが大きく変えられています。


これは、"愛"なのか?


確かに純粋で真っ直ぐな想い。けれど、あまりに身勝手で無謀で鋭く...。純粋なものは、時に、不純なもの下心のあるものより、大きく他人を傷つけるものなのでしょう。


恋する相手に会いたいという一途な気持ちが、トメクに犯罪まがい(イエ...立派に、"犯罪")の行為までさせます。完全にストーカーだし、文書の偽造もしているし、窃盗まで...。まぁ、日本でも、江戸の町を火の海にした"お七"の例もありますが...。なかなか会えない相手に会いたいという強い想いが、トメクを様々な行動に駆り立てます。


こんなオトコに見初められたマグダこそ、いい迷惑だと思いますし、冒頭の方では、トメクのあまりのやり方は、正直、不愉快でしたが、トメクの告白により、トメクへの印象が変えられていきます。この辺りの展開は、基本的にはテレビシリーズそのままという感じですが、ラストの変更により、"愛"について希望が感じられる作品となっています。


トメクの想いの伝え方は確かに間違っていました。けれど、その一途さは、やがて、"愛"への期待を失っていたマグダの心を溶かしていきます。


「覗く側」と「覗かれる側」だった2人の関係が、マグダが「覗く側」に回ることで大きく変化します。"愛"に絶望しながらも"愛"に振り回されていたマグダにとって、トメクの純粋さは、ある意味、不愉快だったし、疎ましいものだったでしょう。けれど、その苛立ちをトメクにぶつけた後、トメクの傷ついた様子に、マグダは胸を痛めます。それこそが、マグダが、信じられなくなっていた"愛"の存在を確認した瞬間だったのでしょう。


ラスト、マグダが見る"愛の姿"は切なく、その儚げな美しさが心に沁みます。


多分、テレビシリーズのラストのほうが現実なのでしょう。そして、本作のラストは、あまりに"夢見る夢子さん"なのかもしれません。けれど、マグダとトメクが、それぞれに味わった苦さの後には、この希望のあり難さがシミジミと感じられます。


影と光が印象的な映像が静かながら力強く迫ってきます。一度は観ておきたい作品だと思います。



愛に関する短いフィルム@映画生活