デカローグIII [DVD]
¥3,591
Amazon.co.jp



モーセの十戒をモチーフとするデカローグの第6話。モーセの十戒で、本作に対応するのは、「あなたは姦淫してはならない」。


孤児の少年、トメクは、友人の母親の家に住み、郵便局で働いています。彼は、毎日、部屋の窓から望遠鏡で、一人暮らしの女性、マグダの部屋を覗いていました。マグダは、毎晩、恋人と愛し合っていました。トメクは、二人の間を妨害するため、無言電話を掛けたり、ガス屋を彼女の部屋に呼んだりします。ある日、トメクは、彼女に偽造した為替の通知を送り、彼女が郵便局の自分の窓口を訪ねてくるように仕向け...。


望遠鏡越しの恋...といっても、片想い。イエ、あまりに一方的で、恋と呼べるほどの繋がりも感じられず、一方的な思い込みというべきなのかもしれません。


男と女。その間には距離があります。触れることどころか、直接、言葉を交わすことさえ簡単ではない距離。その距離は、男の側については、望遠鏡により、視覚的には、縮められます。けれど、それは、当事者にされている女の預かり知らぬところにある恋。


それだけに、純粋で、見返りを求めない恋というべきなのかもしれません。そして、純粋さは、時として、犯罪と紙一重...というより、はっきり"犯罪"ですよね?


ただ見るだけだった相手と触れ合うチャンスができた時、トメクは、そのチャンスを生かせませんでした。彼にとって、直に相手に触れるということは、あまりに不純なことだったのかもしれません。相手に手が届いたとき、理想が汚れた現実にまみれてしまったのかもしれません。


そして、理想に掛けた夢が破れた時、トメクは生を諦めようとします。


純粋さは、その穢れのなさゆえに、周囲にとっては、脅威ともなります。トメクの恋も、マグダにとって、受け入れ易いものではなかったことでしょう。トメクの想いは、純粋さゆえにマグダを傷つけ、打算のなさゆえにマグダの心を惹きつけます。


けれど、その時、トメクの心は...。


ラスト、ドアの前でマグダに浮かんだ微笑、トメクの前では微笑みは消えます。そして、トメクの乾いた表情。トメクの「もうのぞかない」という言葉は、何を意味するのか?マグダへの決別?男と女の間を流れる微妙な感情の揺らぎが見事に表現されていたと思います。


最後を締める2人の表情が印象的です。



デカローグ@映画生活