投身自殺 | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  投身自殺

 

 1年前の記事です。

 私の歌集『記憶の固執』から歌を引いています。

 東京の中央線は、車両が長く、駅のホームに高速で侵入しますので、自殺者が多いのです。

 中野駅での出来事でした。

 以下、記事を再掲します。

 

         日置俊次歌集『記憶の固執』より

 

 

      匣(はこ)のゆきかふ街

 

 

 金の背が揺らめきぬ冥(くら)く灼けてゐるレールに登るこがねむしあり

 

 サンプラザの斜めなる影さえぎりて匣(はこ)はゆきかふ昶(なが)きホームに

 

 真つ青なかうもり傘を杖にして炎天に佇(た)つ顔は見えざり

 

 すべりくる匣のつらなり火のいろすホームの靴は火へとがり初む

 

 細巻きの青傘ひつそり倒れたり線路へ跳びし髪なびくとき

 

 われひとり叫びあげをりレールに乳房圧しつける夭(わか)きくろき眸(め)と遭ひ

 

 わが頭(づ)よりうへなる非常ボタン押すひとかきわけてその火のいろを

 

 やうやくに停まりし車輛ドアあかず窓にぎしぎし揺るるひとかげ

 

 踏まれ蹴られながされてゆく青き傘ひろひあぐあをき愴(いた)みとともに

 

 サラリーマン笑みつづけをりいま投身のホームに蕎麦のどんぶりかかへ

 

 非常ボタン咎むるごとく誰何(すいか)する痩せた駅員 傘を手渡す

 

 アナウンスひとつもあらず寸前で避けたと幽(かす)かな翳のざわめき

 

 ひとかげにふくるる匣(はこ)はつらなりて火祭りのごとく動きはじめぬ

 

 

 これは最近の話ではありません。かなり前の出来事です。

 

 投身というのは本来は、水中に飛びこんだり高い所から飛びおりたりすることを言いますが、ここでは電車に向かって身投げするときのことを指しています。

 

 東京の中央線(濃いオレンジ色の電車)の、中野駅のホームで、若い女性の投身自殺(未遂)の現場を見たことがあります。この一連はその情景を詠みました。

 

 おおぜいの人がいましたが、誰も事件に興味がないようでした。

 飛び込んだ女性の持っていた青い傘をひろって、駅員に渡しましたが、どうなったでしょうか。

 

 私はホームにいました。女性は飛び込んだのですが、私の前を電車が通り過ぎて、その電車の向こう側でおこった話なので、よく見えませんでした。

 

 近くに立ち食いそばのスタンドがあり、そこでそばを食べていたサラリーマンはずっとニタニタ笑ってみていました。楽しそうでした。

 

 その後、そこでずっと様子を見ていると、飛び込んだ後、女性は何とか電車をよけて逃げていったようです。ほっとしました。

 

 傘の写真はインターネット上に出ているものの中から選び、トリミングをして加工し、使用させていただきました。感謝します。

 

 

  

 

いつもブログを読んでくださり、ありがとうございます。

 

   

 

 皆様に幸せが訪れますように。