かりん5月号の詠草 グッフーム | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  かりん5月号の詠草 グッフーム

 

 かりん5月号が届きました。

 いつもは8日すぎないと届かないので、今回は早いですね。

 ありがたいことです。

 まず私の詠草を引用します。

 

   たましひ      東京   日置俊次

 

怖いもうもどりたい夢のその先の青信号より血がしたたるの

「どこからでも切れる」といふのにどうしても切れないだから海を見てゐる

「グッフーム」とゴリラがあいさつしてくれるジャングルを見失つて千年

嘶(いなな)いてゐるあなたの無謀なかなしみにけさの龍神の池の氷は

鍵持つてゐるのにぎりぎりに身を細め通り抜けようとしてよぢれたわ

琅玕(らうかん)のかがやく列も青き葉もあわてふためく午後の驟雨に

もじやもじやと踏ん切りのわるい昴(すばる)たちが降つてくるあなたに何があつたの

何か捨ててあなたは来たのね幾人ものたましひが笑む雲からこぼれて

 

 

 私の内部にある大きな不安を、短歌に描いてみました。

 このうち、ゴリラの歌は、天才写真家岩谷薫氏の御すすめで、「NHKアカデミア」第7回/人類学者・山極壽一」をインターネットで拝聴し、いろいろ考えさせられた経験がもとになっています。私はほとんどテレビを見ないのですが、おすすめがなければ見なかったのですが、これはとてもいい番組でした。

https://www2.nhk.or.jp/learning/academia/video/?das_id=D0024300107_00000

 アフリカでゴリラ社会に飛び込んで一緒に生活した山極先生ですが、そこから、「なぜ人類は暴力をふるい、戦争をするようになったのか?」を考察しています。余談ですが、山極という名前も、壽一という名前もすごいですね。ゴリラと暮らすというのはとても勇気がいることですね。

 いろいろ考えさせられました。

 

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  かめはめ波    ドイツ   溝口シュテルツ真帆

 

幼き日の白詰草の冠は結局一度も出来上がらずに

かめはめ波打てると信じたこの星の裏であなたも練習していた

この手には集まらなかった元気玉だけれど世界のそこここで光る

竹とんぼこんなに飛ばないものだっけあるいはと荒れた手のせいにする

バネのような娘の躰に嫉妬して夜中にひとり壁倒立す

灰色の街にぽつんと色添えるあの花の名がまたわからない

寝不足のどうにもならぬ苛立ちが豆の香に溶けるストライキの朝

 

 

 溝口真帆の歌は「かりん集」に入っています。

 「ドラゴンボール」や「Dr. スランプ アラレちゃん」などの代表作で知られる漫画家、鳥山明さんが3月1日に急性硬膜下血腫で亡くなり、世界に衝撃が走りました。68歳でした。まだまだこれからという時に、この世を去ってしまったのです。世界中で追悼の思いが表現されて、フェイスブックなどでも、そうした動画や画像でいっぱいになりました。

 かめはめ波の歌は、そんな喪に服すつもりで書かれたものでしょう。

 「ドラゴンボール」の思い出は、世界共通の財産になっており、日本でもドイツでも理解されるのです。特にそのころに子供時代を過ごした人たちへの影響はすさまじく、その日本観にも大きな影響を与えています。

 また、ドラゴンボールの影響を受けていない漫画家は、今でもいないと言って差支えがないのではないでしょうか。

 一連の歌には、そうしたノスタルジーを混ぜ込みながら、海外で子育てをする焦燥感や、不安な気持ちが、よく表現できていますね。

 

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    花粉症      東京  黄郁婷(ファンユーティン)

 

ラーメンを煮てみたけれど鼻水があふれて麺が通らず喉を

花粉症で涙止まらずLINE・ドクターのテレビ電話で診察受ける

宅配便ですぐに薬が届けられようやく心が軽くなる春

台湾では聞いたことない花粉症あふれ苦しむ日本は杉の国

日本円下がり続けて冷え冷えと世界の風がわが背をなでる

時の流れはどうしてこんなに早いのかコロナ禍が加速させた時代よ

鼎泰豊(ディンタイフォン)の本店はいまテイクアウトだけ懐かしいあの狭い階段

 

 

 台湾には基本的に花粉症がありません。

 花粉症の日本人が台湾に行くと、すっきりして天国のようだという話もよく聞きます。

 杉の木が少ないということが、一つには影響しているようです。

 黄郁婷は東京で花粉症になったそうで、苦労しているようです。

 しかし、日本円が下がり続けているので、日本で貯金したお金の価値がどっと減ってしまって、黄郁婷はなかなか台湾に行けないようです。

 台北の鼎泰豊は、いま本店建て替えの最中で、本店は閉じています。ただ、テイクアウトの窓口はあいており、料理を買うことはできます。鼎泰豊の歴史はこの本店から始まったのですが、階段が狭くて急で、いつも問題になっていました。この階段問題が、建て替えの一つの要因になりました。一階は会計スペースだけで、とにかく手狭でしたね。しかし今になって考えると、あの階段は懐かしいです。

 ラーメンが喉を通らないというユーモアも交えながら、きびしい世相を黄郁婷はよく描いています。

 

 

 

天天快樂、萬事如意

  みなさまにすばらしい幸運や喜びがやってきますように。

   いつもブログを訪れてくださり、ありがとうございます。