「亡くなる心得」増刷 岩谷薫氏の名著 | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

日置研究室 HIOKI’S OFFICE

作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  「亡くなる心得」増刷 岩谷薫氏の名著

 

 1年前の記事を再録します。

 天才写真家で思想家の岩谷薫氏が、「亡くなる心得」を出版され、その後に、「約束は守った」「やるべきことはやった」とおっしゃっていたことが、今も忘れられません。

 そういう言葉が言えるように、私も小説を書いたり、短歌を作りたいといつも思っています。

 

 天才写真家の岩谷薫氏が出版した『亡くなる心得』は素晴らしい本ですが、なかなか正当に評価されません。本当に良いものが評価されるためには、長い時間がかかるという、世知辛い世の中となっています。最近は軽薄なものでないとすぐに理解できないので、軽薄なものだけが世にもてはやされることになっています。

 

 昔は目のある人が、いつも埋もれそうな作物を拾い出してきて、きちんと評価をしていたものですが、そういう目利きがいなくなりました。

 

 出版界の闇や、校正の難しさなど、ブログで岩谷薫氏が指摘していることは、いちいち頷きたくなる話です。

 

 とても古い話になりますが、源氏側の汚い謀略などがあり、平家は壇ノ浦の合戦で大きなダメージを受けました。頼朝はやはり汚いやり方で義経を殺しますし、勝った源氏が正しいという見方はできません。平知盛は、安徳天皇らが入水し、平氏滅亡の様を見届けました。「見るべき程の事をば見つ」と言い残して、知盛は、海へ身を投げました。享年34歳のことです。

 

 知盛は文武に優れた立派な武将であり、知盛を代表とする平家の滅びの美学のようなものは、お能ではとても大切なテーマとなっています。知盛は「船弁慶」に登場しますが、シテが知盛であり、つまり主役です。主役は義経でも弁慶でもありません。

 

 「やるべきことはやった」という岩谷薫氏の言葉には、このすぐれた知盛の「見るべきものは見つ」という覚悟のようなものが感じられます。その時々の時代の風に逆らうことは難しいですね。しかし、岩谷氏がご自身の美学を持ち、素晴らしいお仕事をなされたことは、間違いありません。

 

 いずれにしても、増刷に至ったことは慶賀すべき話です。

 

 初版、増刷版ともに、数年後には、古書市場で相当な高値がついていることと思います。

 

  

 

  

 

 

 

     皆様のご健康をお祈りいたします。

   そして皆様に、すばらしい幸運や喜びがやってきますように。

   いつもブログを読んでくださり、ありがとうございます。