宮﨑駿 アカデミー賞受賞は手描きの力なのか | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  宮﨑駿 アカデミー賞受賞は手描きの力なのか

 

 以前にも取り上げた話題ですが、もう一度整理しておきたいと思います。

 アニメーションを作るために、昔はセルに一枚一枚絵を描いて、色を塗って、考えられないような労力を払ってきました。

 セルに描いて重ねて撮影ということは、現代ではもう行われていないと思います。何らかの形で、みんながコンピューターを利用しています。

 ただすべてコンピューター任せにするのではなく、もとの絵を一枚一枚手で描くということは続けられていて、それが宮﨑駿さんの持ち味になっています。

 すべてをパソコン上で処理し、キャラクターを動かすところもパソコンにまかせ、さまざまな効果の挿入まですべてパソコンに頼っているハリウッドのアニメーションとは、一線を画しているのは事実です。

 宮﨑さんは必要なところではCGも利用します。

 ただ昔気質のところは変わっていません。

 それは日本的かというと、そうともいえますが、この作り方は初期のディズニーのやり方を最も強く受け継いでいると言ってもいいでしょう。 

 大変な時間と労力をかけて、セル画を積み重ね、手作業で「白雪姫」や「ピノキオ」などが出来上がったのです。その「白雪姫」などの影響を受けて、手塚治虫さんは漫画を描いていますし、宮﨑駿さんもそういう遺産を色濃く受け継いだ人です。

 アカデミー賞受賞は手描きへのリスペクトという話が出ていますが、もとをただせば、それは「白雪姫」へのリスペクトでもあります。

 「白雪姫」の、あのセル画による奇跡のような映像世界は忘れられません。

 宮﨑さんはコンピューターも取り入れながら、過去の遺産も残すという、そういう柔軟性をもった流れを維持したことが評価されたのであり、伝統にしがみついていれば受賞できたのかといえば、そうではないと思います。

 受賞は、不変のものを大切にしながら進化し続けるという、宮﨑さんの姿勢が明らかになり、ハリウッドがハッとしたからですが、宮﨑さんが新しいものを拒んでいたからではないと思います。

 この話にはいろいろなことを考えさせられます。手描きかどうかというよりも、その姿勢そのもの、思想が重要だと思います。

 例えば外国の自動車製造のブランドは、ガソリン車を完全にやめて電気自動車に乗り換えてしまったところが多くありますが、電気を使えばエコなのかというとそんなことはないので(もともと電力を作るときに問題が起きている)、ガソリン車はなくならないし、これから新しい選択となっていくと思います。

 時流に乗ってすべて、なんでも新しい方に乗り換えてしまえばいいのではなく、自身の哲学を持ち、進化をしつつ、自身の方法を大切にしていくことが重要かと思います。

 

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「世界のミヤザキ」に2度目の栄冠 ハリウッドが感嘆した手描きと作家性

2024/3/11 11:28 産経新聞

 

11日(日本時間)に発表された第96回米アカデミー賞は、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が「千と千尋の神隠し」以来、21年ぶり2度目の長編アニメーション賞受賞という日本人初の快挙を成し遂げた。

 

同賞は、米ハリウッドの映画人が中心の「米映画芸術科学アカデミー」(AMPAS)会員の投票で選ぶが、「巨匠が7年もの歳月をかけて10年ぶりの新作長編を作り上げた事実に感嘆し、その労力にぜひ報いたいという気持ちが強く働いたのでは」と語るのは、アニメに詳しいジャーナリスト、数土直志さんだ。

 

数土さんはデジタル制作全盛の時代にあって「君たちはどう生きるか」が、一枚一枚の絵を手で描いて作られたことを挙げ、「手描きアニメは、もはやハリウッドでは継承されていない技術といっていい。やりたくてもやれない。この受賞は、そこへの感銘、リスペクトの表れでもある」と話す。

 

映画評論家の兵頭頼明さんは、「前哨戦のアニー賞を制した対抗馬の『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』のほうが演出技法は革新的だが、宮崎アニメのほうが物語性が豊かだ。作家が語りたいことが明確で、その作家性に感銘を受けたのではないか」と分析する。

 

数土さんは「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」にも「脱デジタルの傾向がうかがえる」と指摘。

 

「アニメ制作の過剰なデジタル化に対する〝揺り戻し〟のようなものが起きているのかもしれない。そんななかで、手描きで作品を完成させた宮崎監督にハリウッドは感嘆せざるを得なかっただろう」と話す。

 

作品の力に加え、米国で12月に公開され、ヒットし話題になったことが「賞レース直前でAMPAS会員の記憶に残り、有利に働いたのでは」と兵頭さん。

 

数土さんは「海外映画祭をこまめに回り、積極的に上映し、AMPAS会員をはじめ世界中の映画関係者の目に留まり、強い印象を残したこともよかったのでは」と語る。

 

また、兵頭さんは「多様化が叫ばれ、AMPASも外国人会員が増加し、アカデミー賞も米映画へのこだわりが薄まっているのではないか。非英語圏の作品が候補になり、受賞する例は、今後は、より増えるはずだ」と話す。(石井健)

 

 

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