地獄谷に棲む――日置俊次歌集『地獄谷』より―― | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 日置俊次歌集『地獄谷』より、歌を引用します。台北の北投(べいとう)にある新北投という温泉の湧きでる町に住み、台湾大学の研究員として、研究をしました。

 

 

   地獄谷に棲む

 

ついに赴任したるなりこの台北に椰子の木揺るる雨の都会に

新北投に光明路とふ通りあり居を定めむか光もとめて

「汽車入口」と表示がありて汽車であるベンツとカローラが入りてゆくなり

機車(ジーチャー)」はオートバイなりどの道も無数の龍のごとく駆けをり

意地悪な人もジーチャーと呼ばるるをそれでもなくてはならぬジーチャー

水汲まむと地下に降り立ち駐車場の匂ひにしばしやすらぎてをり

オートバイに水色の合羽かけられてキティのヘルメットが重しなり

ポルシェをりアウディもをりニッサンもをりてぬくぬく居眠りするか

郵便局の屋上に緑の制服が干されて初夏の風に手を振る

 

 

  

 

 こうした歌は、小説『エメラルドの夜』『サファイアの夜明け』に引用されて、物語の重要な要素になっています。