地獄谷――日置俊次歌集『地獄谷』より―― | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 日置俊次歌集『地獄谷』より、歌を引用します。

 この一連のテーマは、小説『エメラルドの夜』で用いられます。

 

 

    地獄谷  

 

北投(ベイトウ)に地獄の釜のひらくときわれつひにみどりの巫女とならむか

坂道をのぼりゆくなり黒き顔と舌出す顔にみちびかれつつ

背の高き顔より赤き舌が伸びわが髪を撫づガジュマルの下

背の低き顔は(あふぎ)で泣きぬれしわが頬あふぐその風ぬるし

七爺(チーイエ)八爺(バーイエ)に手をつながれてわれはくぐらむ黄泉の扉を

われいつか地獄谷より舞ひあがる湯気になるたはやすく重たく

樹々どれもみどりしたたる谷に浮きわれは見下ろすあをき煮え湯を

われ死にてゐるはずなれどごほごほと硫黄の重き湯気にむせをり

湯気であるわれがわが身の湯気にむせわれを見下ろすこの地獄谷

濛々と湯気乱れたりわが身またひき裂かれほそくからまりあひぬ

ふいに湯へ吸ひ込まれをりあはぶくにまみれてぷはあと息をつくなり

われだけではなきはずなれど地獄の湯につかる裸のたましひ見えず

燃ゆるごとき湯のこの熱さそれよりもしんしんと冷ゆるわが身おそろし

 

 

  

 

 小説『エメラルドの夜』では、出版社にひどい目に会わされました。

 皆さんも鈴プーチンにご注意ください。