中国の大手不動産開発会社・恒大集団は、8月18日米国ニューヨークで破産法第15章の適用を申請し、破綻した。恒大集団だけでなく、中国の多くの不動産会社が苦境に陥っているようだ。中国の不動産部門は、GDPの3割を占めており、今後の動向と政府の対応が注目される。
不動産だけではなく、いま中国経済全体が急失速している。中国の第2・四半期の前期比成長率は0.8%と、第1四半期の2.2%から減速し、日本よりも低水準だった。国営企業などの過剰債務でデフレに陥り、消費が低迷している。若年層の失業率は20%に達している。
こうした中国経済の急失速について、「借金まみれの日本と違って、まだ中国には経済対策を打ち出す余力がある」「習近平に権力が集中しているので、思い切った対策を打つことができる」と楽観視する見方がある。たしかにコロナ対策に見るように、迅速に意思決定するのが中国政府で、今回の不動産危機や景気減速も大事に至らずに済むかもしれない。
しかし、中国では、日本を上回るハイペースで少子高齢化が進んでいる。すでに2022年から人口が減少し始めており、今後、社会保障などの負担が重くのしかかる。中国経済の失速は一過性の現象ではなく、数十年にわたって続く長期的なトレンドと考えるべきだろう。
日本人は中国が嫌いなので、SNSやネット掲示板には、「中国人はこれまでずいぶん調子に乗っていたが、いい気味だ。ざまあみろ」「反日に現を抜かしている場合じゃなく、しっかり自分たちの足元を見ろ」といった喝采・嘲笑が出ている。
しかし、中国経済の失速は、隣国の日本にとって決して良いことではない。日本に大きな危機をもたらすことになる。
まず確実なのが、日本経済への打撃だ。日本にとって、中国は最大の貿易相手国である。中国経済が失速すれば、自動車・機械などの輸出が減る。日本企業による対中直接投資も減る。また、訪日する中国人旅行客数を下押しする。日本では、自動車・機械やインバウンドが主力産業で、中国経済の失速は確実に日本経済に悪影響を与えるに違いない。
さらに個人的に心配しているのは、台湾有事のリスクが高まることだ。
3期目の習近平政権は、台湾統一を目標に掲げている。常識的には「そんなことやってる場合じゃないだろ」と思うが、経済が下り坂で若い兵隊の数も減る状況で、習近平が「やるなら国力が残っている今のうちに」と考えても不思議ではない。1941年の日本も、絶対にアメリカに勝てないとわかっていながら、「石油が残っている今のうちに」と開戦に踏み切った。
習近平の常識・理性を期待したいところだが、プーチンや金正恩と同類で、そういうまともな人間ではないように思う。というより、まともな人間だったらラッキーで、まともではないと覚悟して、日本は対応する必要がある。
では、日本が取るべき対応とは何か。防衛力の増強よりも大切なのは、そもそも習近平に暴発させないようにすることだ。
1つは、ウクライナ政府への支援である。ウクライナへの支援を強化し、プーチンの野望を打ち砕き、習近平に「侵略戦争は成功しない、割に合わない」とわからせることだ。
そして、もう1つは、中国のバランスシート不況からの脱却に協力することだ。リチャード・クーは、バブル崩壊後の1990年代の日本を苦境を「バランスシート不況」と呼んだが、現在の中国は、まさにバランスシート不況である。日本が約20年かけて学んだ「3つの過剰」(資産・負債・人員)の処理のノウハウ、中国に伝授してあげるべきだ。
SNS・ネット掲示板だけでなく、大手マスメディアなどでも、中国の経済失速は「対岸の火事」という感じで報道されている。しかし、中国経済の危機は、日本の危機なのである。
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