5月2日、東京ドームで井上尚弥と中谷潤人の世界タイトルマッチが行われた。32戦無敗同士・PFP(Pound for Pound 、体重差を無視した最強の称号)ランカー同士の白熱した戦いが繰り広げられ、井上が3-0で判定勝ちした。
試合後、井上は今後について「僕の中では白紙」としたが、5階級制覇への挑戦を視野に入れている。井上は、日本ボクシング史上最高の戦いを制し、巨万の富も名声も手に入れた。33歳という年齢を考えると、引退したり活動をセーブしてもおかしくない。しかし、本人はさらなる高みを目指して意欲満々のようだ。
ところで、井上尚弥は、「あえて夢を持たないようにしている」そうだ。先日Yahooのインタビューに答えて、次のように語っている。
「夢なんて、自分がどこまでいけるかわからない。プロデビューしたとき、ここまで来るとは1ミリも想定していなかった。例えば、バンタム級のチャンピオンになりたい、という気持ちでやっていたら、そこに到達したときに燃え尽きちゃう。それが嫌なんです」
なるほど、と思う。
夢(や目標)には、「よし、やるぞ!」とモチベーションを高め、実現に向けてエネルギーを集中させる機能がある。夢を持つと持たないのでは、あることを実現する可能性は格段に違うだろう。
一方、井上が言うように、夢を実現してしまったら、そこで燃え尽きてしまったり、それ以上の活動をセーブすることになりやすい。
私事で恐縮だが、2002年にコンサルタントとして独立開業したとき、10個くらい目標を立てた。それから24年たって、そのうち8つは達成し、2つは未達成である。面白いのは、達成した8つはいずれもギリギリの達成で、当初の目標を大きく上回っていない。井上が指摘する通り、達成して「もうこれで良い」と自分をセーブしているのだろう。
では、井上に倣って夢を持たない方が良いのだろうか。人それぞれだが、夢を持たずに大成功するには、次の2つが必要だ。
① 夢を達成したら次の夢を立てる、強い向上心がある。
② 夢がなくても自然と熱意を持って活動することができる。
このうち②は、心から好きで「やりたくて仕方がない!」とウズウズすることがあるかどうかだろう。
個人投資家の藤本茂は、現在90歳で、すでに18億円の資産を所有するが、毎日朝2時に起きて株のデイトレードをしている。「その歳でデイトレードは大変でしょ」「もう十分に儲けたでしょ」といった声に、「株が好きだから続けているだけ」と語る。井上も「大好きなボクシングを35歳までやりたい」と言っているから、藤本と同じかもしれない。
たいていの人は、強い向上心があるわけでも、井上のボクシングや藤本の株式投資のように「やりたくて仕方がない」ことがあるわけでもない。とすれば、世間でよく言われるように、夢を持つことが成功するためには大切だと思う。
5月2日の試合を見て、多くの若者が「俺も井上尚弥のようなボクサーになりたい」と思ったに違いない。夢を持たない井上が若者に夢を与えているのは、奇妙だが凄いことだと思う。
(2026年5月4日、日沖健)
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