御姫祭当日。実夜は控え室で一人黙々と最後の練習をしていた。するとコンコンというノックの後に扉が開き、純達が入って来た。
「実夜〜来たよ〜!」
「みんな!ありがとう!」
由菜は実夜を見ると「わぁ!綺麗♡実夜、似合ってるよ!」とギュウッと抱きついた。
「えへへ……ありがと。」
実夜は照れながら由菜の背中に腕を回した。
「ホンマ綺麗やでみーこ。」
「まぁ馬子にも衣装って言うしな。」
「そうだな。」
純と戒斗はちょっとからかうようにニヤニヤした目をしている。
「もう、あんた達うるさい!褒めたいなら素直に可愛いって言いなさいよ。」
「あはははは……。」
実夜は困ったように苦笑いを浮かべた。
「ほら亮きゅんも何か言うたれ♡」
そう言うと、あつしは亮介の背中を押した。
「亮介どう?ほら、ボーッとしてないでアンタも何か言いなさいよ。」
「……あ、……うん、永井……すごく、似合ってる……」
「あ、ありがとう……!」
実夜は思わず真っ赤になり、亮介の顔を直視できなくなってしまった。
そんな二人の様子を見てあつしがここぞとばかりにからかい始める。
「ふっふっふ♡亮きゅん、みーこがあまりにも綺麗すぎて目が離せない、もうたまんない、俺も抱きしめたいって感じやな♡」
「うるさい」
「あはははは♡」
部屋中に皆の明るい笑い声が響く。
そんなにこやかな笑いが一通り終わると、「永井、御姫祭の後だけど……、少し時間ある?」と亮介が実夜に尋ねた。
「うん、あるよ。」
「ちょっと時間空けておいて欲しいんだけど。」
「うん、分かった。」
その意味に気づいたあつしは
「あはは!亮きゅんがっつき過ぎ……♡」
と亮介の背中をバンバンと叩く。
「まぁがっつきたくもなるよな。亮介くんが小学生の頃からずっと待ちに待ったこの日だもんな。」
あつしのからかうような視線と戒斗の生あたたかい瞳に亮介はあえて無視を続けた。
「さぁお兄さん♡どうする?遂に実夜も……♡」
「俺の目が黒いうちは、手を繋ぐまでしか認めないからな!」
「はいはい。」
いつもの調子の純になだめるように由菜が頷く。
「分かってるのか亮介!」
「はいはい……じゃあ、あたし等は邪魔しないようにそろそろ行くね?」
由菜が純の背中を押して部屋の外へ出ようとする。それに続いて皆実夜に背中を向ける。
「うん。」
「頑張れみーこ!応援してるで♪」
「ありがとう!」
実夜は元気に笑って皆を見送る。最後に亮介が「また後で。」と微笑み部屋を出ていく。
「はあぁ〜!」
とその場に座り込む実夜。
「緊張してきちゃった……!!」
御姫祭の事もそうだが、一番緊張してきたのは遂に亮介との関係が変わっていけるという事。
「まだドキドキしてるよ……。」
期待と不安に胸を高鳴らせ、実夜は嬉しいけど恥ずかしい……そんな様子で一人はにかんだ。
するとコンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい。」
純達と入れ違いに今度は実夜の母や親戚達が部屋に入ってきた。皆どことなく不安そうな顔をしている。
「どうしたの?お母さん達……なんか暗い顔して。」
「何でもないわ……」
無理矢理作ったような笑顔で母は笑った。
「大丈夫だよ。練習沢山したし、私本番に強いんだから!」
そう言って実夜は明るく笑う。
「えぇ……そうね……。」
「?」
どうして皆そんなに悲しそうな顔をするのか、実夜には分からなかった。
「お母さん……?いった……ー」
「実夜」
その時祭事の格好をした親戚のおじさんが実夜を呼びに来た。
「実夜、そろそろ出番だぞ。」
「はい!じゃあねお母さん達。」
手を振り去って行く実夜の背中を見送る母達。
「何も起こらなければいいけど……。」
「えぇ……。」
母のボソッと呟いた言葉が、これから起こるであろうことをまるで予測していて、親族達の不安をさらに強いものにしていった。