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Coffee&Cigarettes

コーヒーに煙草とそして物語

ダン・シモンズはとんでもない。

『はるか数千年もの未来、地球化された火星のオリュンポス山のふもとに住む学者ホッケンベリーは、イリアムの平原で神々やギリシア神話の英雄たちがホメー ロ スの『イーリアス』さながらに戦うトロイア戦争を観察していた。神々にナノテクで復活させられたホッケンベリーは、この戦争の記録をとらされていたのだ。 だが、彼は思いもよらぬ使命をある女神からさずかる。  地球でわずかに生き残っている人類は、仕事も学問もせず、衣食住のあらゆることを自動機械の下僕たちに任せ、享楽的な生活を送っている。この世界の仕組 みに疑問をもった男ハーマンやその友人アーダとディーマンは、世界の謎をつきとめるべく旅に出た。  木星の衛星エウロパに住む半生物機械であるモラヴェックのマーンムートは、イオのオルフらとともに、火星探険隊の一員として、火星へと向かった。地球化 された火星で起こっている異常な量子擾乱の原因を調査しようというのだが……』

ハイペリオン四部作が度胆を抜かれるような長さの一方で、その面白さったらちょっと他には思いつかないほどの出来だった。
そのダン・シモンズのイリアム/オリュンポスのシリーズの前半を成す長編です。
この物語は主に3つの舞台を中心に展開していきます。
まず第1がイリアムの平原に繰り広げられるトロイア攻防戦です。
古代ローマのホメロスによって記されたと言われる一大叙事詩ですね。
名前だけは知ってるけど・・・
しかしそれがリアルタイムで進行している舞台が火星です。
そして神々によって復活させられた学師ホッケンベリーは戦の経過を観察し、彼の女神であるムーサに報告しなければなりません。
もちろん、おなじみのギリシア神話の神々が登場します。
ゼウスやアポロンやアレス、アフロディーテとかいう名前は聞いたことあるでしょ?
そう、その彼らが神話としてではなく、主要なプレイヤーとして登場します。

第2は木星の衛星で作業するために自己進化したモラヴェックと呼ばれる、アンドロイドのような個体です。
第3の舞台は地球に住むわずかに残った人類です。

読者は、いきなり予備知識も無く物語の舞台に放り出されます。
もう何がなんだか分かんない。
え?これってホメロスの物語だよな、そうすると時間を遡ってんのか?え?火星なの・・・・・?
モラヴェックって?誰が何のために創ったの?
地球?ポストヒューマン後の?なにそれ?
???という感じで読み進んでいくと、いつの間にか物語の虜になりますよ。
少しずつ薄っすらと背景が見えてくる。
あ、そういうことなのかぁ、と思っているとまた一つ。
上巻の1/3くらいは淡々と読んでいくしかない訳ですが、SF好きじゃない人は挫けちゃうかも知れません。
どう考えても関係なさそうな3つの舞台がやがて絡みだし・・・・
一体、この先にどんな謎が、どんな繋がりがあるんだろう、と思っているうちに物語に引き込まれます。
この辺りが実に上手い。

ハイペリオン四部作も滅茶苦茶面白かったが、こっちも負けてないな。
あぁ、もう堪らん。
早く続きが読みたい。
続きはいつだ?

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イリアム 上・下
Ilium
ダン・シモンズ(著)
酒井 昭伸(訳)
(ハヤカワSF文庫1,115円)
★★★★★
だって、デニス・ルヘインだもの。
あの「ミスティック・リバー」のね。

『精神を病んだ犯罪者のための病院で女性患者が、鍵のかかった病室から忽然と姿を消した。そしてその病室には「4の法則」なる謎の暗号メモがのこされてい た。連邦保安官のテディは捜査のため病院に赴くが、ある事に気をとられ、ミスをおかす。妻を殺した男がここに収容されていたためだ。やがて、ボストン沖の 孤島に佇む病院で惨劇が始まる……。』

「ミスティック・リバー」は徹夜本だった。
こいつもそれに近い。
ネタバレになるから感想は書けないな・・・

ところで映画化されるってのを、本を読んでから知った。
監督:マーティン・スコセッシと主演:レオナルド・ディカプリオか・・・・
オレのイメージとは違うが、まぁいいか。

映画を観る人も観ない人も原作は読んだほうがいい。
しかし読んだら分かっちゃうしな、でも読むんだ。
読むんだよ。
こいつはミステリで謎解きでもあるけど、違う違うこれは一人の男の物語。
読んだ後にずっとずっと余韻が残る物語だよ。
涙が出そうな物語だよ。
ずっと考え込んでしまう物語だよ。
叫びたくなる物語。
拳を使って殴りたくなる物語だ。
つまり、つまり極上の物語だ。
さて、映画でどれだけ表現できてるかな。

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シャッター・アイランド
Shutter Island
デニス・ルヘイン(著)
加賀山 卓朗(訳)
(ハヤカワ・ミステリ文庫 861円)
★★★★★
読み終わってから気付いたけど、これハードカバーで読んだことあるわ (*゚ー゚)ゞ
汝の父を敬え――制服の誇り、悲劇の殉職。警察官三代を描く、警察小説の最高峰誕生!

ちょっと言いすぎですけど、警察小説の形態をとった大河小説と言うべきでしょうか。

『昭和二十三年、上野署の巡査となった安城清二。管内で発生した男娼殺害事件と国鉄職員殺害事件に疑念を抱い た清二は、跨線橋から不審な転落死を遂げた。父と同じ道を志した息子民雄も、凶弾に倒れ殉職。父と祖父をめぐる謎は、本庁遊軍刑事となった三代目和也にゆ だねられる……。戦後闇市から現代まで、人々の息づかいと時代のうねりを甦らせて描く警察小説の傑作』

警視庁に奉職した3代にわたる父と子の記録。
終戦直後の混乱期に食べるがために警察官へなった安城清二。
彼の死をきっかけに父の後を継ぐ民雄。
やはり祖父と父の死を真相を知るべく刑事となった和也。
これはこの3代にわたる親子の記録ですね。

物語の中心としては、初代の清二の謎の死がテーマとして流れています。
彼の死は事故死か、それとも・・・・・
終戦直後から平成に至るまでの世相を織り交ぜながら、物語は進んでいきます。
個人的には終戦直後の混乱期が興味深かったですね。
なにか混沌としていながら、人が人として生きるための強いエネルギーを感じました。

一応、ミステリの形式にはなっているのかな。
清二の死の真相に肉薄した息子の民雄もまた凶弾に倒れてしまいます。
全ての真相が明らかになるのは、さらにその息子である和也に引き継がれます。
和也の時代は、もう平成になってしまっていますから、彼もまた現代風な人物ではあります。
しかし、ラストの辺りでは『彼もまた警官の血を継ぐもの』として、ぐっとくるものがあります。

初代の清二の死の真相ですか?
未読の人にばらす訳にはいきませんが、個人的にはもっと期待してたんですがねぇ。
まぁ、途中で薄々感づいちゃうと思いますが。
ここがビシッと決まっていれば文句なしなんですけど。
読んで損はない、なかなかの骨太の物語です。

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警官の血
佐々木譲(著)
(新潮社文庫 660円)
なんかあれでしょ?
ノストラダムスって小学生だった頃に流行ったんですよね。
1999年に滅亡するんでしょ?
なんで滅亡するんだっけかな?

そして2010年のいま、僕はこの本を読んだ。
この1ヵ月というものの、書店に行っても面白そうな本が見当たらないんですよねぇ。
で、タイトルに惹かれて買ったんです。
少し前に、ダン・ブラウンの『ダヴィンチ・コード』ってのが大きな話題になりましたよね。
いま、彼の最新作が出ていて書店ではかなり宣伝に力を入れていますが、『ダヴィンチ・コード』自体も読みましたが、まぁ、そこそこ面白かった記憶があります。
映画化もされて、あれはアレでしたけどね・・・
トム・ハンクスの長髪ぶりがどうにもこうにも頂けなかったです。

予言には続きがあった。未発見の58篇の四行詩――。ノストラダムス研究の権威が描く歴史冒険ミステリ!
と来たもんだ。
フランス王家を心酔させた大預言者ノストラダムス。世界滅亡をも予言したといわれる彼が遺した四行詩は10世紀 分、1000篇。だが、現存しているのは942篇――残りの58篇はどこに? ときは現代。ふたりの男が同時に四行詩の手がかりを得たことで熾烈な競争が 始まった。詩は実在するのか? 人類の未来とは? 
ノストラダムス研究の第一人者が挑む世紀の謎、圧巻の歴史冒険ミステリ。

と言うからには、やっぱりアレですか?
謎の秘密結社とか出てくるんすか?
そもそも秘密結社だから謎なんですけどね。
いや、“
ノストラダムス研究の第一人者が挑む”くらいの“圧巻の歴史冒険ミステリですから、一応期待はしてたんですよ。
主人公と彼に協力するジプシーのエキゾチックな世界を散りばめながら、なんとかっていう秘密結社(やっぱり!)の一員である敵役と、両方を追い詰める警察との息をもつかせぬ・・・・・・
そして未発見の四行詩の謎とは?
いや、ほんとに未発見なのに、ひょっとして作者は何かを知っているんだろうか?
うむ・・・いかにもありそうでなさそうなストーリーをどう料理するかだな。

これ訳者による解説によると、結構評判がいいらしいんですけど、正直なところ読んでいて退屈でした。
上下巻になっているので、仕方なく下巻も買いましたが、早く終わってくれとそればかり考えていました。
だって、つまんないんだもん。

ありそうでなさそうな伏線。
魅力のない登場人物。
中途半端な背景とチープな謎解き。
結局、未発見の四行詩ってさ、要するに何にも分かんないじゃないか!
それっぽく見せかけてますが、どれも半端ですねぇ。
いや、少なくても僕は読んでいてそう感じたな。

それにしてもノストラダムス。
まだまだ引っ張り出されそうですね、2012年までは。
その次は何年まで伸びるのか、楽しみではあります。


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ノストラダムス 封印された予言詩
THE NOSTRADAMUS PROPHECIES
マリオ・レティング(著)
務台 夏子(訳)
(新潮社文庫 700円)
★☆☆☆☆

この作者による続編が近々刊行されるそうです!
マヤの予言とアルマゲドンの・・・・・・いや、もういいから・・・・
シンプルなはずだった僕の人生は、いつの間にか曲がりくねってしまい複雑になってしまった。
シンプルな人生ってどんな人生のことをいうのだろう。
シンプルなんて考え方は、まだ何も知らない子供だから許されるのであって、そもそも“シンプル”という定義すらあやふやなものだ。

「ある雪の日の夕方、借金を苦にして自殺した両親の墓参りに向かうため、ハンク・ミッチェルは兄とその友人とともに町はずれの道を車で走っていた。途中ひょ んなことから、彼らは小型飛行機の残骸とパイロットの死体に出くわす。そこには、440万ドルの現金が詰まった袋が隠されていた。何も危険がなく誰にも害 が及ばないことを自らに納得させ、3人はその金を保管し、いずれ自分たちで分けるためのごくシンプルな計画をたてた。だがその時から、ハンクの悪夢ははじ まっていたのだった。」

この小説は1994年「このミステリーがすごい!」海外作品第一位に選ばれています。
僕も10数年ほど前に一度読んだことがあります。
そうすると、これは2回目?ということになりますが、実は前回は途中で挫折してしまいました。
物語はいたってシンプルで、要するに440万ドルの詰まったバックを偶然発見した主人公たち3人が、これを仲良く山分けしようとするところから始まります。
これは恐らく綺麗な金じゃないだろうということは分かります。
うん、でもきっと大丈夫。
なーに、半年ほどはじっと我慢して持ち主が名乗り出てくるか、ニュースに出てこなければ頂いてしまえばいい。
要するに黙って大人しくしておけばいいはずなので、それまで金は隠しておけばいい。
いたってシンプルな計画だったんです。

しかしほんの些細なことから事態は少しずつ狂っていく。
それは、ほんの些細なきっかけで。

物語は主人公の視点から淡々と進んでいきます。
前回読んだときは、この淡々とした語り口がどうにも退屈に思えたんですね。
それで放り出しちゃった。
いま本屋に通っても、“これは”という作品がなくて、再チャレンジしてみました。

いや、確かに改めてじっくり読んでみると面白かったです。
事態は狂いに狂って、もはや自分たちの手に負えなくなってくる。
ほんのシンプルな計画が複雑になり、やがて狂気を帯びてくる。
この経過を淡々とした語り口でたどっていきます。

それが自分だったら、と何度も考えられずにはいられません。
しかし、思います。
自分が同じような境遇におかれたとき、果たして違う道を選択できるだろうか?
狂ってしまった事態を収拾しようとして、逆に狂気のふちに追い込まれてしまうんじゃないだろうか?
何度も何度も考えさせられます。
これは怖い物語です。

人はもがき、あげきながら逆らおうとする。
自分の人生をシンプルなものに留めておくように。
でも、本来シンプルなものなんてない。
そして考えます。
どこでシンプルなはずの人生が狂ってしまったんだろうと。
スティーブン・キング大絶賛なのも頷けます。


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シンプル・プラン
A Simple Plan
スコット・スミス(著)
近藤 純夫(訳)
(扶桑社ミステリ 734円)
★★★★☆

人付き合いが下手な僕でも友達と呼んでもいいだろうと人が数人いる。

そういう人たちと仙台で数年ぶりに会ってきた。
みんな変わってないな。

会話は弾み、黙っていてもいいし、何か話してもいい。
なに話そうか、と気に病む必要もない。
会話が途切れても別にいいし。
何を話してもいい、自分を晒してもいい。
少し思い出に浸ってもいい。

あぁ、そうか僕にも友達はいるんだな。
日常の煩わしいことを忘れて、何も考えずにそこにいてもいんだ。
カッコつけなくてもいいしな。

歳をとるにつれて、いろんなことにがんじがらめになってしまっている。
それを打ち破りたいけど、そんなに思い通りにならないのが世の常というもの。
これでも我慢してることはあるし、「これは言っちゃいけないぞ」と抑えてるものもある。

そういうものをどこかに置いて、ただひたすら酒を呑み大きな声で笑おう。
落ち着く場所で、美味い飯を食おう。
また行こう。
どこかにそんな場所がいくつかあってもいいよね。

ところで大学と共同研究をしないといけなくて、それで東北に出張していたわけです。
正直なところ、イワユル“先生”と呼ばれる人は苦手です。
好きじゃないし、気疲れもするし、根拠はないんだけどお付き合いしたくないのが本当のところですが、仕事上そうも言っておられなくなり、しぶしぶ尋ねていった次第です。
以前から面識はあるし、取引先の人と2人して行きましたので気分的には少し楽かな。
なんせ主なやり取りはお任せしちゃってますから。
この取引先の人というのが工学博士で同い年です。
博士なんて知り合いはこの人と御茶ノ水博士くらいなもんです。

大学ってーのは、一体全体どういう仕組みになっているかよく分かりませんが、そこに女性の先生が一人おられます。
土木で女性の先生って珍しいでしょ?
へぇーへぇー、先生ですかい、そうですかい、今更ながら僕にも基礎から教えてもらえませんか?
よくよく聞いてみると彼女はポスドクと呼ばれる方です。(なんすっかそれは?)
ポストドクターと呼ばれる契約期限付きの研究者ですね。
任期は2年だそうで、あと1年で次の勤め先を探さないといけない。
ふーん、先生ってのも大変なんだなぁ。
さぞかし頭がいいんでしょ?まぁ、先生、今日は飲みに行きましょうぜ。
というわけで3人で2時半まで大いに飲んでいたのでありました。
「先生、明日は鮨食って温泉入りに行く?」と我々2人はノウテンキ。
「あ、いえいえ折角ですが明日は学校に行かないと・・・・」

ごめん、先生。
また来るんで、その時もよろしく。

彼女はその身分の不安定さに関わらず、明るい芯の強い女性だったな。
恋愛のこと、将来のこと、仕事のこと、結婚や出産のこと。
いろいろ話しをして、でもあくまでも明るくて・・・ずっとビール飲んでました・・・・・
女って強いな。
そして僕はこういう女性に弱い。

今年の方角は“北北東”か。

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あまりにも【犬の力】が面白かったものですから、ドン・ウィンズロウの他の作品が読みたくなって買いました。

これはまた【犬の力】とは全く違った感じで、いやだけど面白い。

「1976年5月。8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。 ニール・ケアリーにとっての、長く切ない夏が始まった……。元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する! 個 性きらめく新鮮な探偵物語。シリーズ第1弾。」

ストーリーもさることながら、主人公のキャラクターが素晴らしい。
探偵物なんて世にいくらでも転がっているのに、このキャラクターの設定がどれも生き生きとしてます。
あんまり突拍子のないものだと、感情が移入できませんが、その辺りの匙加減が秀逸です。
その点、このニール・ケアリーの生い立ちはありそうで無さそう。
どっちかって言うと無いんだろうけど、読んでいて違和感が無い。

これがデビュー作というから恐れ入りますね。


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ストリート・キッズ
A Cool Breeze on the Underground
ドン・ウィンズロウ(著)
東江一紀(訳)
(東京創元社文庫 1008円)
★★★★★
なんかいろいろ疲れちゃってさ。

疲労困憊ってとこです。

思い通りにならないことはままあるけれど、今日ほど怒りを通り越して情けなかったことは無い。

あんなに無責任な人達と一緒に仕事したくない。

『お前が出来るかどうか、一度やってみるか?』

いろんな問題はあると思うけど、それを人ごとのように考えるなんて出来ないよ。

いつでもどこでも僕は集団の中で孤立する。

今の職場は、たしか5年ほど経っているけど段々と一人になってきた。

一人になるのは昔から分かっているけど、こっちが悪いのかねぇ。

いっそ周りに流されてしまえば楽になるのに。

面白い。

面白いの一言に尽きる。

30年にわたる血と暴力と裏切りと麻薬のサーガ。

「メキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー。叔父が築くラテンアメリカの麻薬カルテルの後継バ レーラ兄弟。高級娼婦への道を歩む美貌の不良学生ノーラに、やがて無慈悲な殺し屋となるヘルズ・キッチン育ちの若者カラン。彼らが好むと好まざるとにかか わらず放り込まれるのは、30年に及ぶ壮絶な麻薬戦争。米国政府、麻薬カルテル、マフィアら様々な組織の思惑が交錯し、物語は疾走を始める――。


そこには勝者も敗者もない。
このDEA捜査官アート・ケラーの八面六臂の活躍かと思いきや、カルテルやマフィアそしてアメリカやメキシコの政府を巻き込んでの混沌ぶりには度胆を抜かれっぱなし。
どうしてこんな物語が書けるのか想像もつかないが、一気に読ませるだけの迫力が凄いです。
いくつもある伏線を、ラストに向かってピタリと合わせてくるところなんかも見事です。
この不毛な世界の勝者は一体誰なんだろう?
読み終わった後に考え込まざるを得ません。
人は生まれ、生きてそして死ぬ。
そんないくつも物語りが誕生して消えていくが、シナロアに咲く芥子の花の風景だけはいつの時代も変わらない。

ストーリーも凄いですがディテールも素晴らしいですね。
こういうのはちょっと日本の作家で書ける人がいるだろうか。
読み終わるのが惜しいくらいに物語にどんどんと惹きつけられる。
あぁ、幸せ。

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犬の力
Old City Hall
ドン・ウィンズロウ(著)
東江 一紀(訳)
(角川文庫 1,000円)
★★★★★

素晴らしい物語とは、読み終わった後に後悔するような
『これ読まなかったら、もう一度読めたのに・・・・』
パラドックスです。
どうして読んでしまったのか、どうして結末を知ってしまったのか。
どうしてって言われても、“面白そうだったから”としか答えられませんが・・・
後悔するほど面白い本だけが殿堂入りを果たすことが出来るのです。

一応、自分の部屋を確保しておりまして、本棚をでんと置いています。
一度読んでしまった本は、まとめてブック・オフに売ってしまいます。
そうしないと部屋中が本だらけになってしまいますから。
どうしてもこれは手元に置いておきたいと思えるような本は、この本棚の中に大切にしまってあります。
僕にとって、この本棚の中に納まることが“殿堂入り”ということになるんです。

殿堂入りの基準はただひとつ、“もう一度読んでもいい”と思えることです。
ストーリーも結末も知ってしまった上で、それでももう一度読みたいと思えることが条件。
これって意外と厳しい基準なんですよ。
1年で数冊くらいしか貯まっていきません。
今年でいうと、どれ基準をクリアするかなぁ。
もう一度読んでもいい、繰り返し読みたい、と思うような本はどれかなぁ。

この本棚にしまってある本は、思い出したように取り出してみては、何回か繰り返し読んでいます。
何度読んでも面白い本ってあるんですよ。
この自分なりの“物語の殿堂”には、もう一つの目的があります。

近い将来、娘たちが本をちゃんと読めるようになった時に読ませてやりたい。

TVもゲームもいいけど、大人になるまでに本をたくさん読みなさい。
お前たちのために、選りすぐりの物語を揃えているのだ。
いまのところ、うまくいっているか分かりませんが。

そして新たに本棚に収納されるのは・・・

大聖堂
大聖堂-果てしなき世界

あとは売りに行きましょうか、いくらにもならないのが悲しいんですけどね。