次の日は出張で朝早くに部屋を出た。
初日から忙しく、ホテルの自分の部屋に戻ることができたのは夜遅くなってからだった。
昼間は仕事に追われて気にならなかったが、ひとりになると昨夜の冴子の事が思い出される。
「11時か・・・」 少し遅かったが電話する事にした。携帯を取り出し、冴子の名前を探す。
「?」 ない。いくら探しても冴子の名前がなかった。
その時初めて、俺は冴子に電話した事がないのに気づいた。
会わない日なんて、ほとんどなかった。電話なんてしなくても、いつでもそこにいた。
だから番号なんて知る必要がなかった。冴子が尋ねてくる事もなかった。
そんな必要もないほど、俺たちは近くにいたのか?
「あ・・・俺、冴子に出張の事、話してねぇや・・・」
この出張が急に長いものに感じられた。
翌日からも仕事は大変だった。
いろんな事がなかなか前に進まない。打ち合わせ、変更、調整、それらを繰り返す日々が続いた。
次から次へと起こる問題に正直、投げ出したくなる時もあった。
でも、冴子の事を思うと頑張れた。冴子に軽蔑されるような事はしたくなかった。
誰かの為に頑張るなんてできないと思ってたけど、でも、誰かがいるだけでこんなにも頑張れるんだ。
離れてみて、今更ながら、冴子の大きさを感じていた。
「この仕事が無事終ったら、冴子に気持ちを伝えよう」そう思っていた。
全てが片づいた時には、当初の予定をはるかにオーバーして、2週間が経っていた。
大変だったけれど、達成感があった。上司にもほめられたし、みんなも喜んでくれた。
「冴子が言ってたのは、これなんだな・・・」 みんなが喜んでくれたのが嬉しかった。
これで冴子に会える。胸をはって会える。早く冴子の顔が見たかった。
出張から戻った日は、報告やいろんな事務処理に追われた。
それでも夕方までには何とか仕事を終える事ができた。
久々だからと何人かに飲みに誘われたが、丁寧に断った。早く冴子に会いたかった。
部屋に帰り着く。冴子はまだ帰宅していなかった。
俺はふと思いついて、マスターの店に行ってみる事にした。
じっと部屋で待っているなんてできなかった。。
冴子の部屋のドアに俺の携帯番号を書いたメモを貼ると、俺はマスターの店に急いだ。
つづく