前回は日本の犬猫の殺処分数について書きましたが、今回はドイツについて考察したいと思います
前回同様、マース社が行っている最新の調査やドイツの自治体などが出している情報、ニュースなどを情報源としています。
まずは、ドイツの犬猫の現状について。
- 飼主のいない犬猫の割合:7%(犬0.2%、猫12%)
- 飼主のいない犬の数:22,700匹(21,000匹シェルター、17,000匹がホームレス)
- 飼主のいない猫の数:204万匹(35,000匹シェルター、200万匹がホームレス)
全体の飼主がいない率は、日本が12%なのに対してドイツは7%と低いです。
特に犬は0.2%、数も日本(52,500匹)よりだいぶ少ないですね。ドイツの人口は8,300万人くらいなので、人口比でも日本の70%くらい。
一方猫は飼い主がいない子が204万匹で、日本の222万匹と大差なし。人口比だと約1.5倍もドイツのほうが野良猫の数が多いです
- 飼い犬/猫の避妊去勢の比率:犬52%、猫87%
犬の不妊手術率は日本(62%)よりも低く、猫は日本が82%なので、5%くらいドイツのほうが高くなっています。
ドイツや北欧の国は、基本的に不妊手術に反対の人が多く、必要性(前立腺肥大など)がない限り、しないという人が多いそうです。
- 犬の年間の殺処分数:ゼロ
- 猫の年間の殺処分数:ゼロ
日本でもよく言われている通り、確かにドイツの「行政による」殺処分はゼロ。
ただ、「犬猫を殺すことがゼロ」というわけではないようです。
ドイツでは、殺処分がない代わりに、以下のようなことが行われています。
1.安楽死
政府が補助金を出して民間が運営している保護施設「ティアハイム」は、全体での安楽死数は非公表ですが、公表している施設では収容頭数の20%程度が安楽死されているそうです。
飼主がいる子達でも、ドイツの犬猫の死因の80~90%は安楽死(日本は正式なデータは見つからなかったものの、動物病院へのアンケート結果だと、大体0.3%~数%くらいらしい)。
飼われている子達の平均寿命は日本と比べて4歳くらい短いそうです。
私の中学時代の親友が獣医になり、旦那さんの転勤で10年くらいドイツに住んでいたのですが、「日本だと考えらえないような軽症でも安楽死することがある」と言ってました。
ココちゃんのように、「いつ死んでもおかしくない」と言われるほど重症で、安楽死されても全然不思議ではなかったのに、単に痩せただけですっかり健康体になるケースもありますし
とはいえ、日本でももう少し安楽死が普及したほうが、「治療費が払えない」「飼主死亡/入院」などという勝手な理由で飼育放棄し、恐怖と苦痛の中で殺処分される子は減るのかな、という気が。
2.射殺による駆除
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警官が射殺する犬猫の数は年間約1万頭以上(主に犬)
- ハンターが犬猫を射殺することが合法で、毎年推計猫が10~20万匹、犬が6万匹ほど駆除されている(16州あるドイツの1つの州が数値を公表していて、その州だけで猫1万頭超、犬数百匹をハンターが射殺。首輪をしていても、住宅地から数百メートル以上離れた場所をうろついてる犬猫は駆除の対象になります)
この「射殺による駆除」を含めると、ドイツで行われている「広義の殺処分」は数十万匹レベルなので、日本の殺処分(年間1万数千匹)よりかなり多いです。
一見すると犬猫(特に猫)に対して残虐なように思えますし、私も最初、射殺された犬猫の遺体写真が載ってるニュース記事などを見て、「なんてひどいことを」とびっくりしました。
でも、別に犬猫を面白がって射殺しているわけではなく、
- 人に危害を加えたり、生態系に悪影響を与える犬猫は容赦なく駆除
- 譲渡の可能性が低い犬猫は安楽死させ、可能性がある子を優遇
- 行政ではなく民間にやらせることで政府への批判をそらす
というポリシーみたいです。
猫や犬を銃殺するハンターの立場からすると、野生動物保護の観点から、彼らにとって犬猫は害獣。
特に猫は、可愛い姿にもかかわらず、「世界の侵略的外来種ワースト100」に入る凄腕のシリアルキラー
猫によって既に絶滅した生物は63種、推定100種類が猫によって絶滅の危機に
また、アメリカの連邦政府とスミソニアン博物館の調査によると、米国内では毎年、鳥類14億~37億羽、ネズミなどの小動物や両生類などは200億匹が猫に殺されているとのことです
日本の事例でいうと、伊豆諸島の御蔵島のオオミズナギドリが有名ですね。
実際に犬や猫と暮らしている身としては辛いですが、野生動物の保護活動をする人たちからしたら「希少種を絶滅の危機に追い込んでいる犬/猫は駆除しないと」というのは当然ですし、致し方ない部分があると思います。
私も、我が家に発生した白アリを害虫として大量虐殺してますし
「命が大事」というのであれば、猫だけじゃなく、鳥類から虫まで、大切な命ですよね。。。
「TNRで個体数を減らす」という方法もありますが、社会学者のRickeyさんが仰る通り、TNRで猫の狩猟本能を抑えられる訳ではないので、生態系の保全という意味では短期的には効果ナシ
それに、ほぼ全頭を集中的に避妊去勢でき、外からの流入できない状態を作らないと、TNRによって野良猫の数をコントロールするのは困難です。
ドイツのように他国と地続きだと、更に大変そう
また、外に行く飼猫や外猫/地域猫(全て避妊去勢済み)にカメラを装着して行った調査では、例え人間にゴハンをもらっていても、猫はテリトリー内の多数の生物を遊びで狩るので、1ヘクタール当たりの被害では、ノネコ(完全に野生の猫)よりも外に出る家猫や地域猫のほうが被害が大きいそうです
こういう事実からすると、やはり猫は完全室内飼いをするべきで、外猫はなるべく里親を探し、無理な場合は苦渋の選択として駆除を行わないこともあるのかな、と思いました。
「犬猫さえよければ、他人に迷惑をかけようが、他の動物が無残に殺されようが、知ったこっちゃない」というのでは、犬猫愛護であって、動物愛護じゃないですよね。。。
ドイツは、行政での殺処分はせず「ドイツは素晴らしい」と犬猫愛護家に思わせて批判を避けつつ、実は害獣となる犬猫は民間のハンターや警察官に殺処分させ、保護と駆除のバランスを取っているようです。
(これが良いか悪いかは別にして)「上手いことやってるんだな」と思いました。
そういう意味で、ドイツは確かに「動物愛護先進国」なのかもしれません。
ご批判はあるかもですけど、調べれば調べるほど、ドイツのように「締めるべきところは締める」ということは、動物福祉や愛護活動を行う上で重要だと思うようになりました。
全ての命は犠牲なく救えたらいいですが、それは不可能。
理想に固執して変な方向に暴走する事例はたくさんあります。
私が思うに、暴走のパターンはいくつかありますが、動物を不幸にするのは、欧米で多い「何でもかんでも安楽死」と、日本でも多い「ネグレクト/多頭飼育崩壊」の2つだと思いました。
安楽死タイプの代表は、世界最大級の動物愛護団体・PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)。
毛皮や動物実験反対、ヴィーガン推奨で有名な団体ですね。
PETAはどんな動物でも受け入れるそうですが、あまりに安楽死するので、「シェルターという名の安楽死専門病院」と揶揄されています
正確性は不明ですが、元スタッフの証言によると、里親が見つからず、長期間収容されている犬猫がストレスから問題行動や自傷行為(ケージに身体をぶつける、身体をなめ壊すなど)をするようになり、そこから「苦しみから救うのは安楽死」という考えになり、ガンガン安楽死を行うようになったそうです。
どう考えても殺処分対象ではないチワワなのに、保護してすぐに安楽死して、訴訟が起きたりも。。。
PETAに保護されていたら、皮膚病のワサビも、咳が酷くて心臓病と誤診されていたシニア犬のココちゃんも、即日安楽死だったと思います
「動物の倫理的扱いを求める人々の会」というけど、彼らの考える「倫理的扱い」って何なんですかね
自分たちのその時々の都合に合わせて解釈し、勝手に信じた正義を振りかざして命を手玉に取るなら、そのこと自体が倫理的じゃない気がしてしまいますが
もう一つのネグレクト/多頭飼育崩壊は、日本は枚挙に暇はありませんね。
ちょいちょい私が批判しているシンガポール人がやっているシェルターも、既にネグレクト/多頭飼育崩壊への道を着々と歩んでしまっていて、収容されている子達の状態は悪く、ストレスから強い子が弱い子を殺してしまうことも
オーナーはしょっちゅうFacebookに「いかに犬猫を愛しているか」をアピールして寄付を募っているのですが、最近は「エアコンが壊れている。シニアの犬たちが心配」と投稿していました。(ここ最近の外気温は日中40℃前後。。。)
エアコンが壊れた件はちょっと前から投稿していて、1週間以上経過しているのに、まだ対応してないっぽいです。
多数の命を預かっている立場なのに、40℃の猛暑の中、すぐにエアコンを新調/修理するお金も確保しておらず、1週間もそのままって、「どんだけ責任感と管理能力がないのよ」というかんじですよね
普通の感覚があれば、こんな事態に陥ることは保護っ子達にも支援者の人たちにも申し訳ないと思いそうですが、本人は全く悪いことだと思ってないみたい
むしろ、「可哀想な犬猫をたくさん引き受けてる素晴らしいオレ様」とでも思ってるから、Facebookに堂々と投稿できるんですよね。。。
「絶対こうはならない」とは思ってますが、多頭飼育崩壊をした人たちの情報をみていると、誰もが最初は良いことをしようとしてたのに狂ってしまったようなので、自分は大丈夫と過信してはいけないですね
私は虫には容赦ないのに、哺乳類に弱いところがあると、先日実感したばかり。。。
ネズミ問題が発生し、どう考えても駆除すべきと頭では分かってはいても、殺鼠剤をスーパーマーケットで買えませんでした
学生の頃はハムスターも飼っていて、ハムスターも実はかなり知能が高いです
その子は「シャロン」という名前で、ベッドの下とかに居ても、名前を呼ぶと走って出てきて、足の甲に乗ってくれてました
そんな思い出もあり、病原菌をバラ撒くと知りつつ、ついネズミに同情する気持ちが
ドイツのハンターのように犬猫を直接的に射殺することはない(そもそも銃を撃てるようになるとは思えない)ですが、この先動物福祉に関わる事業をしたら、保護したい子を諦めないといけなかったり、安楽死しないといけない時は多々あるかと思います。
そういうとき、割り切るべき時は割り切り、シビアにすべきところはシビアにできるのか、自分でもちょっと心配です
間違っても暴走しないよう、しっかりポリシーや事業計画を考えておかないとですね。
ドイツについては、イメージだいぶ違いましたが、勉強になりました。
次回は、私が住んでいるラオス。。。についての情報は統計がないので、お隣のタイやインドネシアなど、東南アジアの国について調べたことを書いてみたいと思います。
まだ調べ切れてませんが、発展途上国だと、数字も何も日本やドイツとは全くの別世界です