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if…〜scene27
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『人の死って呆気ない』
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お母さんが死んだ時、その言葉を嫌ってほど思い知ったはずなのに。
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「夜中の見回りの時、気がついた時には…」
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5年ぶりの再会から半月後。 
お父さんは誤嚥性肺炎で亡くなった。
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 『次休みが取れたら、岡山行こう。明日美やで、って言おう』そう思ってたのに。
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私は…ずっとこうやって、後悔してく人生な気がした。
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『形だけで大丈夫です』 
ほんとその言葉の通り、父を一人で見送った。
葬儀会社にお願いするお金もなくて、施設で手配してもらって、火葬のみ。
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「明日美ちゃん、家…まだ置いてあるけん。ちょっと寄ってったらええよ」
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お母さんのお兄ちゃん。 
親戚のおじさんは、「明日美ちゃんが帰れる場所があったらええと思ったけん、置いといたけ。おっちゃんがたまに掃除するだけやけん、キレイかどうかは目瞑ってな(笑)必要なもんは、忘れんともって行くんやで」そう言うてくれた。
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5年ぶりに足を踏み入れた我が家。 
主を失ったそこは、すっきり片付いてて。 
でも、あちこちに私の思い出が残されてた。 
幼い頃、わがまま言って買ってもらったキティちゃんのマグカップ。 お父さんとお母さんとお揃いのお茶碗。
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「あっ…」
お母さんがいつも座ってたドレッサーの引き出しをひくと、私が小学校入学の時3人で撮った写真。ずっと玄関に飾ってあったもの。
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お父さんの病気がわかった頃、いつも酔っぱらってばっかりの姿を見て、「こんなのいらない!」ってお母さんにその写真を投げつけた私。
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『ここにしまってたんだ…』
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その写真をテーブルの上に並べて、2人の位牌をその前に。そして静かに手を合わせた。
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「お父さん、お母さん。天国でも一緒にいるよね」
娘の私から見たら、恥ずかしい位仲がよかった2人。
きっと、空の上でも。そうあって欲しい。
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「こんにちは」
って声がすると、玄関ドアに映る人影が目に入る。
訪ねてくる人なんていないはず。
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「俺、…彰吾やけど」
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「ちょっと待って、すぐ開ける」
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「円に教えてもらったんよ。
ごめん、こんな普通の恰好できてしもて。連絡来て、そのまま羽田向かったけん」
って、申し訳なさそうに頭を下げる彰吾。
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「お父さん、お母さんにも。手合わせても、ええ?」
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「ん」
2人の前にゆっくり座って静かに手を合わせると、私の方へと向き直った。
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「大変やったやな。…今まで、がんばったな」
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「そんな、美談みたいなんやないよ。お金で解決するんなら、それがええって、割り切ったんよ、私」
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そう。
お母さんが亡くなった時。
私はどうしてもお父さんが許せんかった。
ほんまやったら、岡山で一緒に住む事やってできた。でも私はそうせんかった。
 病気なんをいい事に、施設に預けてお金だけ払えば、ええって。そう決めた。
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「最低やで、私…ほんま。 最後まで、お父さんを許せんかった」
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「…」
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「父親やのに、『お母さんを殺した人』としか思えんかった」
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「でも、あの日…『会いに行った』、やろ?許そうって思ったからやろ?」
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「…ん。でも、何も言えんかった。『明日美やで』って。『お父さん』って、呼べんかった…。
後悔せんようにって、休み取れたら、会いに行こうって思ってたのに。 もう、後悔ばっかや…私」
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「大切な人が亡くなって、何も後悔がない人なんておらんて。 みんな、『あの時…』って思いながら生きてくんやって俺は思うで?」
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「…ん」
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「後悔があるから『次は…』って思える…そうやろ?」
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「ん…」

「明日美?……東京、戻ってくる…やんな?」
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「ん。 あっちで仕事もあるし。 社長も『戻ってこい』って言うてくれとるから」
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「そっか…。色々整理できてから、ゆっくり戻ってきたらええんやない? 戻ってきたら、修二と円とメシでもいこうや」
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「ん、また連絡する。…これから、何したらええんやろな、私」
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「自分の為に生きてけばええんやで?」
「難しいなそれ。私、わからんわ」
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「夢とか、ないん?」
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「ないな…。考えた事ないんやって、夢って」
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「…そっか」

「彰吾は、ええね。羨ましい。夢あって」
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「やな…夢はいっぱいあるわ。一個やろか?明日美に」
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「はっ?無理やし。彰吾の夢もらっても、私には遠いし、デカすぎるわ(笑)」
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「『大切な人を、幸せにする』
この夢、明日美にやるわ。それなら、叶いそうやない?」
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「…どうかな」
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「叶うように、がんばれや。何か目標があるって大事やって思うで?」
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「ん…」
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「よしっ、じゃあ俺帰るけん」
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「えっ?」
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「いや、夕方から仕事なんやて。
往復飛行機…、めっちゃ芸能人やろ?俺(笑)」
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すっと立ち上がると、右手を私の頭にそっと乗せた。
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「待っとるけ、帰ってくるん」
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視線の高さがあんまり変わらないから、すぐ近くに彰吾の顔があって。 
変わらないその三日月型の目に、ふっと気が緩むと、一気に涙が溢れた。
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