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if…〜scene28〜
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「ほら、やっぱりやんけ…」
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円が、連絡して来た時に言うてた。
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「明日美、全然泣いてる感じじゃなかったんよ。淡々としてたん」 
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俺がここに来てからもそう。 涙を流すでもなく、淡々としてるっていうか、冷静で。 
他人が亡くなったみたいな、その感じ。
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そんなん『我慢してるでしかない』に決まってる。
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そっと触れた明日美の頭。
すぐ側で視線を合わせると、ぶわって一気に涙が浮かび上がって落ちてく。
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頭に置いてた手を背中に添えて、ゆっくり抱き寄せた。
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「我慢せんでええやん…、あほやな、ほんま」
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「あほ、言わんといて」
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「ふふ(笑)」
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俺の耳元、「あほ、ちゃうもん」って呟く声。
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静かに肩を震わせる彼女。
ぎゅって、強く抱きしめたい衝動を抑えて、添えただけの右手。
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「彰吾…ありがとね」
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そう言って、離れてく細い体を、もう一度引き寄せる事はできんかった。
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『友達』やから…。
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壱馬 side
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「おはようございます」
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夕方から事務所で会議の予定。
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俺が着いた時、いつもの場所にやましょーさんはいなかった。
『会議』ってなったら、一番に来てるのに。
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「やましょー、ちょっと遅れるって」
陣さんが、「どうしても岡山行かないかん用事ができて、午前中の飛行機で行って、すぐ戻ってくるって連絡あったんやけど」
ってぶつぶつ言いながら、席に座った。
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『明日美さんや…』
どうしても行かないかん理由…それは彼女に繋がる何かやって、すぐわかった。
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「ちょっと、すいません。すぐ戻ります」
会議が始まるまで後5分。 廊下に出て鳴らした明日美さんのスマホ。 呼び出し音は途切れる事はないまま。
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『何かあったら俺に言うてや…なんでやましょーさんなん』
怒りと焦りが入り混じる感情。
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「壱馬?始めるよ。どした?なんかあった?」 北人の声に、ふって息を吐いて、『仕事せな』って気持ちを切り替えた。
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「すみませんでした」 やましょーさんは30分遅刻で、途中参加。 
入口で、大きく頭を下げると、いつもの位置に座った。
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「やましょーさん」
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会議が終わって、みんながぞろぞろでてくのを見送った後、2人になったタイミンクで声をかけた。
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「お疲れさん。遅れてすまんかったな」
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「それはええんですけど。岡山っ行ってたって…」
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「明日美…お父さん亡くなったって」
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「えっ…」
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「俺んとこにも、直接連絡あったわけやなかったんよ
明日美の友達…円っていうんやけど。円んとこのおばちゃん、明日美の父ちゃんがおる施設で働いとって…、んで、連絡もらったん。
…明日美は、相変わらず何もいうてこんかったわ」
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何も聞いてない
そんな大事な事…。
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「俺にだけ、連絡あったって、壱馬はそう思ったん?」
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「…っ、はい。すいません」
ウソはつけんかった。
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彰吾 side
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「なんで謝るんよ…壱馬」
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好きな相手なら、『そんな大事な事、自分よりも先に他のやつに…』 
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そんなん聞かされたら焦るし、嫉妬もして当然やって思う。 
俺がやってる事は、『友達』のラインを踏み越えてるってわかってる。
 でも無理しとるのがわかる…そんな彼女をほおっておく事はできんかった。
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『最低やん、俺……』
言うてる事とやってる事が矛盾しとるやん。
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「ごめん、壱馬……」
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「えっ…」

「思うまま、言うてくれてええで?遠慮せんでええから。俺がやっとる事、あかんよな…。ごめんな…」
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視線を合わせてそう言うと、じーっと俺を見つめて、ゆっくり一回瞬きをした。
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「もし、やましょーさんじゃなかったら…って」
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「っ…」
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「『もし』って嫌いなんですけどね、俺、ほんまに。 でも、今はちょっとその『もし…』を望んでたりします。 
やましょーさんじゃなかったら、こんな思いせんでよかったんかな…とか。 最低ですね、俺…」
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そう言って、被ってたキャップのつばをぐっと降ろした。
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怒ればええのに。
何で、お前は…。
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壱馬…?
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俺も『もし、相手が壱馬じゃなかったら…』って、思ってしまうわ…。


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…next

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