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if…〜scene29〜
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明日美さんからの返信があったのは、そこから1週間後。
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気になるんやから、こっちから連絡すればよかったのに、意地になって彼女からの連絡を待った。
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≪先週、お父さん亡くなって、岡山帰ってた。
明日、東京戻るから。
電話、かけ直さんでごめんなさい≫
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そこに≪会いたい≫とか≪声聞きたい≫とか俺を必要としてくれる言葉はなくて。
別に付き合ってるわけでもない、彼女の気持ちを確かめたわけでもないのに、 勝手に奢ってた自分。
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何て返信をしたらええかわからんくて、そのままスマホを閉じた。
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このままじゃいかんって思うのに、ひょっとして、このまま連絡が途絶えたら、やましょーさんに対して変に嫉妬したり、勘ぐったりする事もなくなって、その方がええんやないかって思ったり。
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でも…だからってこのまま会えんようになるんは嫌って思ったり…。
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出口の見えないところぐるぐるしてる感じ。
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マンションに帰って、ぼんやりゲームを聞いてみるも、やる気にはなれんくて。
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「次、LINEするん、俺の番よな…」って、画面とにらめっこ。
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くだらん内容で連絡するのは今は違うって思うし。
「無理っ」
ベットにスマホを放り投げて、そのまま俺も身を投げ出した。
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目に入った蓋の開いた俺の鞄。
そこには、角が少し潰れてしまったブルーの箱。
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「このクッキー、懐かしいよね。久々食べたらめっちゃ美味しい」
「ほんまやな、旨いわ」
北人にもらったムーンライトクッキー。
2枚入りのそれを1枚ずつわけあったあの日。
「次見つけたら、買おう私!2箱買おっ(笑)」
珍しい位テンションあがる彼女が可愛いでしかなくて。
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何日かして、スーパー行ったタイミングでそれを2箱カゴに入れた。
喜ぶ顔が思い浮かんで、マスクの下の俺は笑ってたと思う。
渡す機会をのがしたまま、それはずっと俺の鞄の中にある。
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「『もし』なんてないやろ。 自分でどうにかするしかないんやって…」
言い聞かせるように天井へと言葉を投げた。
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明日美 side
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役所的な処理、施設への支払い、荷物の引き取り。
悲しみに浸ってるような時間はなくて。
でもそれがいいのかもしれないって、今回そう思った。
やらなきゃならない何か…、淡々と済ませられる何かがある方が、感情の揺れは少なくて済むから。
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「あっ…」
明日東京に帰るって時になって、開いたLINEの画面。
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円からのLINEの下にある名前に気がついた。
壱馬くんからの不在着信。
もう1週間も前。
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『今更、何を…』って思ったら、事実をただ送るしかできなくて。
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精一杯が最後の行の《ごめん》だった。
既読にはなったものの、返信はない。
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『明日美のLINEは何か冷たい』
円にも、彰吾にも言われた事があった。
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でも、1週間もほっといた連絡に『ごめん』の他に送る言葉は見当たらなくて。
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『あっ、柴犬』って思ったけど。何か空気よめてないよなって思って、そのままテーブルの上にスマホを伏せた。
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カーテンのない窓から見える月は満月で。
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壱馬くんに出逢ってからの色々が切り取られて頭に浮かぶ。
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『会いたいな…』
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大切な人を失った今、気づく。
大事にしたいと思う人が誰なのか。
『この人は失いたくない』そう思える人が誰なのか。
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…next
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ストック全部出してしまったんで、しばらくお休みさせて下さい。頭の中では仕上がってるんですが、文字化するのに少し時間がかかりそうです。himawanco