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if…〜scene30〜
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「はぁ…連絡せな。…何てするん?こういう時?」
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結局彼女からのLINEを既読無視状態の俺。
もう、東京には戻ってきてるはず。
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中学生の片思いかよ…って、突っ込みながら夜道を歩いてると、珍しい音に自然と目がいった。
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「あっ…」
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こないだとは全然離れた場所やのに、偶然見つけたラーメン屋さん。
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財布に閉まってたあの名刺…。
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『抜け駆けなしだよ』
そう笑った明日美さんの顔がふわっと浮かぶ。
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『運命的』
勝手にそう思い込んで彼女のスマホを鳴らした。
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「もしもし…」
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『出た』
電話をかけてちゃんと繋がる事の方がなんか珍しいから、彼女の声が聞こえた事に、ちょっとびっくりして。
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「…久しぶり、やな」
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「ん」
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『ん』の一音じゃ、彼女のテンションも、考えてる事も読み取れなくて。
一か八か…。
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「ラーメン屋さん見つけたで、田﨑さんの」
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「…」
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「俺、抜け駆けしてまうで…」
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流れる沈黙。
彼女に会いたいのに…もっと声が聞きたいのに…。
そう思ったら、もう感情のままに溢れ出た言葉。
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「何か言えって…、言うてや、明日美さん」
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彼女の事を考えて…とか、全然できんかった。
余裕がなくて…。
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「壱馬くん…連絡せんで…ごめん。
1日返信がなくても、こんな風に思うのに…私、ほったらかしにしとった…」
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「いや…俺も意地になってたから。自分から連絡したらええだけやのに。
…お父さん、大変やったな」
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「ん…」
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「いっぱい、聞かせて?」
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「…えっ?」
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「なんぼでも聞くけん、ちゃんと聞くけん。 やから、俺に言うて? 他の誰かじゃなくて…俺に言うてよ」
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「…壱馬くん」
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「待ってる…来るまで待ってるから」
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「…ん」
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そこで電話を切って、今いる場所をLINEすると《ありがとう》ってすぐに返事が来た。 たったそれだけの事にほっとする自分。
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「こんばんは」
暖簾をくぐって顔を出すと、「いらっしゃい、あっ…えっ…彼女は?」って返事。
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俺の…俺らの事がわかるらしい。
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「これから来ます。多分…」
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絶対来るなんて言えんけど、でも『来てほしい』って思う。
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「ケンカでもしたの? 前来た時あんな仲良さそうだったのに」
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「いや…ケンカっていうか、そもそも俺ら付き合ってるわけでもないんで」
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「そうなの?」
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『仲良しカップルだと思った』…って言いながら、俺の目の前にグラスを置いた。
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「よくわからん時あって…彼女。 ってか、まだ知り合って、数える程しか会うた事ないから、当たり前なんやけど。
あんま自分の事を言いたがらないっていうか、『聞いてよ』って言うてくれる事とかもなくて。
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何か、彼女にとって俺って何?って思ったりして。 そういう人ってわかってるんやから、細かく気にせないかんのかもしれんのんですけど、 それもうまくできんくて、俺…。 そうなったらほんまに俺のいる意味って何?ってなって…」
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好きやけど、誰と競っても負ける気がせん位、彼女の事が好きやけど。
俺って必要?ってなる。 彼女をよくわかってるやましょーさんの方が、明日美さんにはいいんやないか?って思ったり。
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「すみません、急にこんなん言われても困りますよね…。俺、どうしたんやろ…」
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俺等の事をよく知ってる人でもないのに、喋りだしたら止まらんくなって。
手を止めるわけでも、俺の方を見るわけでもなく、「ん…ん…」ってラーメンのスープのでっかい鍋をゆっくりかき混ぜながら聞いてくれる田﨑さんに、今思ってる事を
『吐き出した』
でしかなかった。
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「いいよ?他にお客さんもいないし、話くらいは聞くけど?そういうお客さんばっかだから、 うちの店。
ほら、俺、聞き上手だからさ(笑)」
そう言ってニカって笑った。
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「…でもさ」
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ラーメン鉢を二個並べてすっと手を止めると、先を続けた。
「『そばにいる意味』なんて難しく考える事なくない?
意味がなきゃ、ダメかな?
『好き』で、十分でしょ。むしろ、そこがメインでしょ。数回しか会った事ないけど、『好き』が確かって、それがすごいと思うけど?」
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「…はぃ」
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「おっ、来た来た、彼女。
『ラーメン食べたいから来た』そういうわけじゃないと思うよ、俺は…」
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背中から聞こえる、間隔の狭い足音。走ってきてくれてる…。
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『俺に会いたかった…』
そう思ってもええんかな…。
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…next
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