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if…〜scene26〜
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「それ飲んだら帰れ。昨日、ちゃんと寝れんかったやろ? 明日も早いし…な?」
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「…はい」
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何とも言えん顔をした壱馬を、ちょっと無理やりに追い出した。
これ以上話ししてたら『俺やって…』って言いそうやったから。
『友達』って決めたんは、自分やのに。
壱馬の気持ちを聞いて、『わかった』って言うた事への、後悔が全くないなんて絶対言えん。
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「はー。ちょっと、話し聞いてもらおうか」
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壱馬が帰った後、行き場のないこの感じを誰かに聞いてもらいたくて。 テーブルの上に置いてたスマホに手を伸ばした。
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「もしもし、今日どこでやってますか? はい…じゃあ15分で行きます」
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スマホと財布だけ持って家を出た。
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「こんばんは」
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「久しぶりだね、やまちゃんが、連絡してくるとか」
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俺が連絡したのは、ラーメン屋の兄ちゃん。
『たかひろさん』
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ハジメマシテは2年位前、デビューが決まっとったのに、その話しは見送られ…グループとしては活動休止。
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まぁ、悪いんは俺らなんやけど。
調子に乗っとったんのも、何となく自覚あったし、真面目やったか?全力やったか?って聞かれたら正直即答はできんかった。
でもやらされる仕事は雑用でしかなくて、ほんま「何しとん?俺」って腐りそうになってた。
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そん時、見つけたんが、ビルのガラスの前で踊ってる人達。
懐かしくて、飛び入りで入れてもろたその日。
楽しかった…、単純にめっちゃ楽しかった。
その帰り、隣の狭い道でこれまた懐かしい雰囲気のラーメン屋台を発見。
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倉敷の駅前によく出てて、80位のじーちゃんが金ない俺に「皿洗ったら、タダでええけ。 食うてけ」って言うてくれた。
これも、俺にとってはほんま大事な記憶。
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『懐かしいな…』
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まぁ、「こんばんは」って暖簾くぐって、そこにおったんはじーちゃんじゃなくて、東京のイケメンど真ん中みたいな人やったんやけど。
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でもむっちゃ話しおもろくて、ラーメンもうまかったし、しつこく食い下がって連絡先を教えてもらった。
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それから、何かちょっと行き詰った時に、話し聞いてもらったり、仕事とか関係ないくだらん話しをしたい時に連絡する相手。
メンバー以外と話ししたいって時に俺が頼る人。
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「何かちょっと…」
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「何?俺に会いたくなった?とか(笑)」
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「しょーもない話、聞きたくなったんす」
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「しょーもないって言うなよ(笑)」
そう言いながら出してくれたビールグラス。
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「じゃあたまには、やまちゃんのおごりで、俺も頂こうかな」
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「いつもですけどね(笑)それ。いいっすよ、どーぞ」
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『俺だけ飲むのも…』って、俺のおごりで瓶ビールを2人で分け合う。これもまた毎度の事。
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「たかひろさん、聞いてもいいっすか?」
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「ん?」
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「…友達のラインってどこまですかね?」
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「はっ、何?哲学的な話し?やめて?俺、頭悪いから」
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「…ですよね」
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「おいっ! 否定しろって」
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「(笑)」
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「…友達か。ん…女の子って事?女友達?」
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「…ん」
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「…好きなんだ、その子の事」
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「好きなんですけどね、『友達』でいる事にしました。 その子の事を『好きです』っていう後輩がいて。 もう、どうあがいても、俺なんか勝ち目ないやつで。
言えんかったです、『俺も好きや』って」
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「そっか…」
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「たぶん彼女の方もそいつが好きで。
まぁ、『2人でお幸せに』…なんですけどね」
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「ん…」
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「友達としてでもいいんで、側にいたいっていうか。 女々しいのは十分わかってて、情けないのもわかってるんですけど。
この先、ひょっとしたら、俺だからできる事があるんじゃないかって、思ったりもして。
でも、2人の邪魔をしたいわけじゃないんで、友達のラインってどこまでなんかな…って」
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「できるの?その子と友達。そんなに好きなのに?
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…残酷だよね、友達って。
他人って方がまだラクじゃん。 ひょっとしたら、彼氏より近い位置にいるのにさ、『一番遠い』…だよ?」
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「…はい」
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「俺だったら…」
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「だったら?」
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「んーわからん(笑)その時になってみないと、そんなのわかんない。その女の子がどんな子なのかもわかんないし、そもそも恋愛は、わからん!」
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「ふふっ(笑)ですよね。いいっす…大丈夫っす」
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「俺、モテるから。そんなの経験ないし」
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「自慢っすか?」
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「えっ、そうだけど?(笑)」
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「はい、もういいです。ラーメン下さい。大盛で。何かサービスもして下さい」
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「サービスをリクエストってないからね、普通。
はいはい。じゃあ、今日は全部のせ」
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「ラッキー」
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どんって明らかに重たそうなラーメンを俺の前に置くと、「まぁ、やまちゃんが思うようにやればいいよ」っていつもみたいにニカって笑った。
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特に、何かを言ってもらいたかった訳じゃない。
たかひろさんに何かを言ってもらったとこで、何かが大きく変わるような事はないって、自分でもわかる。
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ただ…
「そうなんだ…」って聞いてもらいたかっただけ。
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麺が見えない位トッピングが大量に乗ったラーメンを食べきると、何かおなかも心も満たされてくような気がした。
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