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if…〜scene32〜
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「明日美さん」
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彼女の背中を呼び止めると、相変わらず両手で大切そうにクッキーの箱を握ってる。
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「話、あるんや…」
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「ん…前言うてたよね」
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覚えててくれてたんや…。
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「ん、あっこで…」
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街灯の下のベンチを指さすと、同じ速さでそこまで歩いて、2人でゆっくり座った。 
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どんな言葉で伝えようか…って思う俺より先に、彼女が口を開いた。
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「私な…ずっと後悔ばっかやったん。 お母さんが死んだ時も、…こないだ、お父さんの時も。
『もしあの時…』とか、『もっと、あぁすればよかった』って、そんなのばっかで」
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「…ん」
自分の事を話すのが苦手な彼女が、俺に話してくれる。『俺にだから…』そう信じたかった。
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「壱馬くん…」
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「ん?」
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「言わんと後悔するんは嫌やけ、言うな…」
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そう言うと、ベンチに座りなおして、俺の方を真っすぐに見た。
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『…これ、えっ?』
俺の頭に浮かぶ事が正解なら、それは、俺も自分から言いたかった事で…。
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「ちょっ…待って!」
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思ったよりも大きい声が出て、彼女がびっくりして2回パチパチって瞬き。
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「ん…待っとく」
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両手を重ねて膝の上に乗せると、俺を見上げる瞳。
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『や…こういうのを想像してたんやなかったんやけどな。
そりゃ、ちゃんと伝えたかったんやけど、こういう『待ってます』みたいなんじゃないんが理想やったんやけどな…、流れで、スマートに…みたいな』
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「好きや……壱馬くん」
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「…っ」
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「ふふっ(笑)ごめん。
もう、待てんかったけ。…ごめんな」
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照れ隠しみたいに下を向くと『めっちゃ挙動不審やけ、壱馬くん』って笑う。
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『好き』 
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彼女の『好き』は、俺が彼女を思う『好き』と同じ…やんな?
 不安になって、彼女の右手を握ると「えっ…」って顔を上げる。
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「俺にとっての『好き』は、『大事な人』『失いたくない人』 『ずっと一緒にいたい人』…そうなんやけど」
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「…私も同じやで?」
そう言うと、俺の背中に腕が回される。 
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『暖かいな…』
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肩越しに聞こえる彼女の呼吸。
スパイス系の香水はハジメマシテの時と同じで。 
あの時には、考えられなかった今の状況に、頭の中は混乱中。 
でもそれを悟られないように…ふーって大きく息を吐いて、頭の中も、気持ちも整理整頓。
そうしてると、ゆっくり離れてく身体。
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「不謹慎よな、私…」
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「ん?」
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「まだお父さん死んで半月もたたんのに…」
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「ん…」

「でもな…、思ったんよ。
大事やって思う人がおるんなら、それはちゃんと言葉にして伝えないかんのやって」
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俯き気味だった彼女が、すって顔をあげた。
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「私は、壱馬君が好きやわ…」
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…next
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