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tomorrow〜scene23〜
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彰吾に『ほっといてくれ』 そう突き放された衝撃は、結構半端なくて。
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一番辛いのは彰吾だって、ちゃんとわかるのに、何も手につかない。
仕事に行っても、ずっと上の空で、ただ単純に洋服を隅からずっと畳みなおしてみたり、そんな日が続いてた。
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円から『ちょっとほっといたらいいけん。ちゃんと修二がごはんとかそういうのは世話焼いとるけん、明日美は心配せんでいいけんね。ちょっと距離置きな』って連絡があってその言葉に甘えさせてもらってた。
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今、私が言える何かも、できる何かもない。
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「今日…暇やな…」
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接客してれば多少は気がまぎれるのに、そんな時に限ってお客さんは少なくて。 2月の終わり、ただでさえ寒いのに、今日は雨で。
日中でも、どんより暗い空。
静かに降り続く雨。
もう一生太陽は姿を見せないんじゃ…って思うような厚い雲。
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昼と夜の境目のないまま、閉店時間が近づいてくる。
お客さんのいない空間は静かで、鞄の中で震えるスマホの音が、はっきり聞こえる位だった。
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♪〜♪〜
私を呼ぶその振動に鞄の中に目をやると、警察からの電話だった。
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「もしもし、本藤です」
電話の相手は、事件を担当してくれた刑事さん。
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「あの…本藤さんのストーカー被疑者の件なんですが。
10日後、保釈が決まりました。…すみません。
初犯であること、身元引受人に彼の父親の知り合いの精神科の医師がつく事と、300 万の保釈金の支払われて。
接近禁止命令が発令されるんで、本藤さんに近づいてくる事はないと思うんですが…。
ちゃんとした手続きと、ご説明させてもらうので、一度こちらへ…」
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「…」
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「大丈夫ですか? 本藤さん?」
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「…はい…わかりました。仕事があるので…調整してから連絡させて下さい」
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回らない頭で、ちゃんと受け答えできたかもわからないまま、気がついたら電話は切れてた。
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『実刑になると思います』
そう聞いてた…なのに。
静かに降ってたはずの雨が急に強さを増して、窓ガラスにうちつけるその音に呼吸が早くなる。
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ぎゅっと握られた手首の感覚、背中に感じた冷たさ。 あの時のアイツの顔が、はっきりと頭の中に浮かぶ。
階段を落ちてった、彰吾の足から、黒ずんだ赤がとめどなく溢れてきて…。
両手で抑えても全然止まってくれない。
叫びたいのに、声は出なかった…。
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握りしめたスマホ。
手の震えが止まらない。息がうまくできなくて。
震える右手で呼び出したその人の名前。
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「出て…お願い。
助けて… 壱馬くん…」
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何度も、何度もかけ直した。
でも、繋がらないまま。
床にペタって座ったまま、そこから動けなかった。
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息をするのが精一杯で、一人でここから出てく勇気もなくて。
…外に出たら、アイツがいるかもしれない…その恐怖がこれからずっと続く。
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♪〜♪〜
床に伏せてたスマホが鳴ると同時に通話をタップしてた。
絶対に壱馬くんだって、そう思ったから。
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「もしもしっ!」
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「 …明日美。…どした?」
こないだとは違う、いつもの彰吾の柔らかい声に、涙が一瞬で溢れた。
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「彰吾…助けて…」
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…next
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