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Hummingbird〜lastscene〜
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「俺も一緒にいってもええ?」
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「ん」
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片岡さんの四九日。 秋が近づいて、空が少しずつ高くなっていってる。
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「いい天気だね」
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 「やな…」
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すーって胸いっぱい息を吸い込むと、鼻に抜ける潮の香り。 
片岡さんのお墓は、海が見える場所に小さく建てられてた。
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「今日は新作です、直人さん。これから秋なんで…さつまいものモンブランと、 梨のコンポートです。感想、教えて下さいね」
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來夢がそう言って手を合わす隣で、俺も一緒に手を合わせた。
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『元気にやってます。安心して下さい』
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「ライム?」
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聞きなれないその声に振り返った彼女がすって立ち上がった。
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「社長…ご無沙汰してます」
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「ん、元気そうだな。…あなたが、川村さんかな?」
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「あっ…はい」
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きちっとスーツを着たその人は、片岡さんにゆっくり手を合わすと「直人…俺から渡しとくな」って、ゆっくり立ち上がって俺達の方へと振り返った。
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「ライム?…これ。
 あいつの夢を、お前の側においてやってくれるか?」
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持ってた紙袋から、がさがさって出してきたそれは、両手で抱えられる位の大きさの板。
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「直人の夢だよ」
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そっと、彼女の腕に預けたそこには青い鳥と、右隅に黄色の絵の具で『Hummingbird』そう描かれてた。
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「言ってたよ、直人。
『これ…ライムが始める店に飾って欲しくて。 
店の看板に!なんて、そんなおこがましい事は言わないんで。店の隅っこにでも。 いや、邪魔にならないとこにでも置いててくれたらって思って』
だって。
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直人さ、毎日開店前、ちょっと早めに来てさ、少しずつ描いてた。
これ、いくつめかな、失敗作結構あるよ(笑) 「こうじゃないんだって」ってぶつぶつ言いながらさ。
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ほら、あいつなんだかんだでこだわり強いから。
 すごくな…楽しそうだった。「絵の具なんて使うの久しぶりです」って子供みたいな顔してさ。
俺が知ってる直人は、子供なのに大人ぶって、舐められないようにってバカみたいに肩に力入ってな…。あんな風に笑うあいつを初めて見たよ。
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お前が辞める日、言っただろ?『ライムが夢を叶えた時に答え合わせはできる』って」
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「…こんな」
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隣にいる來夢の目からはどんどん涙が溢れて、ポタポタ落ちてく。 震える手で、でも、しっかりとそれを握って。
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「お前の夢は、お前だけのモノじゃない『ライムが夢を叶える事』が、直人の夢だった」
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「ん…はい。わかりました。…はい」
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愛おしそうに、何度もそれを腕にだきしめて、頷く。
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「川村さん?」
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そう呼ばれて、びくっとした体。 
それを見て、『別に取って食おうとかじゃない』って笑う。
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「ライムを頼みます」
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深く頭を下げると、俺らを残して去ってく。
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遠くに海鳥が鳴く声が聞こえると、ふわって優しく俺らの周りを包む風。
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片岡さんがすぐ隣にいるような。 あのクシャっとした優しい笑顔で、『がんばれよ』ってそう言ってくれてるようで。
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隣にいる來夢の肩に手を回して、そっと引き寄せた。
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「いつでも、側にいてくれてる…そうやんな?」
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「ん」
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「しゃきっとせな、怒られるで?…俺も、來夢も」
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「帰って明日の仕込みしなきゃ」
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片岡さんに託されたそれをぎゅって両腕で抱きしめる彼女は、すって顔をあげた。 
何か、すっきりしたってそんな印象で。
そこにもう涙はなかった。
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「あっ…」
彼女の視線が俺の向こう側へと移ってく。
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何やろ…って振り返った先には、小さい鳥。 
すーっと空へと真っすぐに羽ばたくそれは、真っ青な空に吸いこまれていくようだった。
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「青い鳥…」
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童話の中でしか知らない『幸せの青い鳥』
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それを追い続けた先に何があるかはわからないけど。
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來夢と一緒に。
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…夢を追う彼女の一番そばに、俺は居る。







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「おはようございます、お待たせしました」
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朝10時。
並んでくれてるお客さんに声をかけながら、店先の小さい椅子にOPENを知らせるそれを置いた。
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『これからも、自分の名前を生きていきます』
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Hummingbird
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 ...fin
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大切な人の死を受け止めて、それを乗り越える…ではなく、寄り添って生きていくお話でした。
『生きてる人間でしか、支えてあげられない』このまこっちゃんのセリフが、今回のメインワードです。
いつもみたいに「THE ハッピーエンド」ではないですが、未来を感じられるそんなお話にしたかった。
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いつも私のお話を読んでくれる人にたくさんの『ありがとう』を。 himawanco