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tomorrow〜scene24
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「彰吾、お前わかっとるよな?」
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『ほっとけ』って言うたのに、円が作ったメシを持ってあの日から俺んとこにちょくちょく来る修二。
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タッパーの蓋を開けながら、『わからんのやったら、ぶっとばすけ』 そう言って、俺に箸を差し出した。
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「何や、それ」
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「明日美の事や」
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「あぁ…」
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「ほんまにウザイとか思ってたりするんか?」
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「…せん」
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ウザイなんて、1回も思った事ない。
あん時は、もう、何かよぉ自分ではわからんくて。 あれ以上傷つける事をまだ言うてしまいそうで、遠ざけるのに必死やった。
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「修二、あんな…。
今は、正直何も考えられんのんや、俺。
他人の事も…何なら自分の事も、これからの事も」
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何をしたらいいのか、自分に何ができるのか…。それを考える事すら嫌になって。 ただ、息をして、気がついたら眠ってて。
目が覚めても何も変わってない…そんな生活。
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毎日のように鳴るスマホ。
誰からの連絡かを気にするのも面倒で、伏せたままのそこにはたくさんのメッセージが残されてく。
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「メシだけはちゃんと食え」
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そう言って、頻繁にうちを訪れてくる修二。 特に説教みたいな事を言うでもなく、「また明日な」って帰ってく。
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こんな状況でも不思議と人間って腹は減るもんで。
それが逆に『こんなんでも、俺、生きてるんやって』実感させられて。
『メシが食えるなら、生きてけるんや…』って。
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それって、人によっては希望なんかもしれんけど、俺にとっては絶望でしかなかった。
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『このまま…生きてくんか…』
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「何も考えられんけど、考えんでもわかる事はあるんやないか?」
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「ん?」
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「明日美、傷ついとると思う」
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「…ん」
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「あいつから、歩み寄ってくるんは、無理やと思うで。 明日美、あぁ見えて結構ビビリやけん」
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「…ん」
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「ほらっ」
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テーブルに伏せてあったスマホを俺に差し出すと「さっさと電話せぇって」って顎で合図。
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そうよな…とりあえずこないだのあれは俺が悪い。最低や。
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今俺のおかれてる状況は、明日美のせいじゃない。それは間違いないんやから。
通話ボタンを押した瞬間繋がった事にびびる。
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切羽詰まった明日美の「もしもしっ」に、ただならぬ状況を感じた。
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「彰吾…助けて」
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明日美のその声を聞いた瞬間、何も持たないまま、マンションを飛び出した。
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何も考えられんでも…体は勝手に動いた。
明日美の『助けて』に。
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「明日美!」
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店のある二階へと階段をかけあがって引いたドア。
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「彰吾…」
レジの置いてある右隅、隠れるように座り込んでた彼女を見つけて駆け寄った。
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通話のままにしてたスマホをぎゅっと握って、俺と目が合うと、口元が小さく震えだして、涙がポロポロ落ちてく。
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「ごめん…ごめん…」
何に対しての『ごめん』なんかわからんけど、何度もそう繰り返す彼女を力いっぱい抱き寄せた。
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何て声をかけていいかもわからず、窓にうちつける雨音だけが小さい店の中に響く。
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「もう、大丈夫。ごめん」
ゆっくり離れていく明日美の目は真っ赤で。
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「怖いん。…どうしよ、私」
泣き止んだはずの瞳からまた涙が落ちてく。
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目に見えない傷は少しも癒えてはなくて。
きっと、ずっとこれからも。明日美の心に大きく影を落とす。
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そっと触れた彼女の右頬。
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「明日美?俺と帰るか…岡山」
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傷ついたもの同士慰め合う。
それで、生きていけるなら、もう逃げても隠れてもいい気がした。
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「帰ろ…?明日美」
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ゆっくり顔を上げた彼女が、小さく頷いた。
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一人で生きてくのは無理かもしれん。
でも、倒れないように支え合う人がいてくれたら、俺はもうちょっと頑張れそうな気がした。
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帰った場所に何があるかはわからん。
何もないかもしれん。
それでもよかった。
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明日美を…少しでも早くここから遠ざけたかった。
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…next
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