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PROMISE〜scene23〜
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「これ…つぐみの…」
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病院の廊下に貼られてる『空色ポスト』のポスターは、今年もつぐみのデザイン。
入院前、『これが一年で一番の仕事だから!』って言いながら、何枚も書いてたデザイン画。
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今年は、小さい手が空へと赤い風船を放つ瞬間の絵。
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「ママの絵、上手やな」
そう声をかけながら、咲依にポスターがよく見える位置に立った。

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産まれてから2ヵ月。 順調に体重は増えて、小さめに生まれたのがウソみたいに、すくすく大きくなってく。
先週の心臓のスクリーニングも異常はない。
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つぐみに早く教えてやりたい。
誰よりも、咲依の体を心配してたつぐみ。
『大丈夫や』って伝えたい。
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「つぐみ、来たで」
抱っこ紐から咲依を解放して、つぐみの側に立つと、いつもと変わらない寝顔と、呼吸音。
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「咲依?ママに『大きなったやろ?』って自慢してやれ(笑)」
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静かに眠るつぐみの胸元に咲依をそっと乗せると、すーって眠りに落ちていく。 
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俺がどんだけ抱っこしてゆらゆらしても、寝んのに。 さっきまでグズグズぐ言うてたくせに…。
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「つぐみ…お前だけずるいやん。ええとこ取りやん」
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「ママの匂いがするのよ」 
回診に来てたスミレさんにそう言われた。
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「ママの心臓の音が、やっぱり落ち着くのよね、咲依ちゃん」
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静かに眠るつぐみの胸の上で眠る咲依。 
幸せそうで…、何かもう、これがずっと続くような。 悲しいとは少し違う感覚。
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つぐみの心臓はちゃんと動いてる。 
咲依が気持ちよさそうにそこで眠るのは、つぐみが生きてる証拠やから。
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 気を緩めると何か涙が出そうで、顔をあげると、窓の外に浮かぶ赤色の風船。
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「あっ…」
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窓に駆けてって下を向くと、中庭でたくさんの人が集まってた。
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「あっ、もう始まってるんや」
シェアハウスに住み始めてから、毎年恒例のそれ。
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「壱馬!」
下から手を振る北人。両脇に大芽と芽生を連れてる。
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 そこへ樹がジュースを持って来ると、芽生を抱き上げた。 
『あそこだよ』って樹が指さすと、芽生が俺に手を振ってくれる。
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「壱馬くんも書く?空色ポスト」
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「ん、もちろん」
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スミレさんが渡してくれたその紙に大きく太く、神様によく見えるように書いた文字。
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『諦めない』
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それは、神様への宣誓。俺自身への誓いでもある。
帰りに飛ばして帰ろ。
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「ふぇーん」
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『起きてもうたか…』
咲依の小さいその声に振り返った。
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「っ…」
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小さい背中に乗せられた、薬指にピンクゴールドの指輪がつけられた左手。
トントンって2回背中を叩きながら、瞼がゆっくり開いてく。
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「つぐみっ!」
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駆け寄ったベットサイド。
開いた瞼の向こうに俺が映ると、ゆっくり瞬きをして。
すーって、彼女の目じりを涙が伝ってく。
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小さく動く口元。
「か…ず…ま」
声は聞こえない…でも、俺を間違いなく呼んでた。
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…奇跡。
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生きてきて、その瞬間に初めて俺は遭遇した。
もう一生ない…。
ん、それでもええよ。
つぐみの瞳の中、俺がおる。
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たった一度の奇跡は、今、この瞬間がいい。
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...next is last scene
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つぐみちゃんが目を覚ますのは、『空色ポスト』の日。『咲依ちゃんの声』で。と決めてました。お待たせしてすみません。
いよいよ明日最終話です。   himawanco
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