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PROMISE〜scene22〜
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「やっと寝た…」
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つぐみが眠ったままの2ヵ月が過ぎ去って。
必死で過ごしてきた時間。

 『時が止まったまま』
つぐみがいない時間は、ほんまはそんな風に感じるんやろうけど、成長してく娘の存在が、それを許してはくれない。
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 『しっかりしてよ!』ってつぐみの声が聞こえそうで。
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咲依は、ほんま寝るのが苦手な子で。 
「お父さん一人じゃきっと大変だと思うから、周りの人にも助けてもらって下さいね」 退院する時、NICUの看護師さんにもそう言われてた。 
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スミレさん、樹も、仕事が忙しいのに、何の文句も言わずに、面倒を見てくれる。
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北人なんて、毎晩のように夜中も付き合ってくれる。 「パパも、ママも寝るの得意なのにね(笑)」って笑いながら。
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ミルクを飲ませて、転がしたら寝てた大芽と芽生とは大違い。 ほんま『全然大丈夫です』なんてウソでも言えなくて。
 仕事と育児…ほんまに記憶が飛びそうな毎日。
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梅雨明けの7月の日曜日。
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息を止めながらやっとベビーベットに寝かせると、ふぅって肩の力が抜ける。 
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ふと目をやったつぐみの仕事の道具が入ったチェスト。 岩田さんがくれたお気に入りの色鉛筆、クレヨン、スケッチブックに折り紙、画用紙。
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『つぐみせんせい』ってかいてあるひよこの形をしたネーム。
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なんか、そこにつぐみがいるみたいで、引き寄せられるみたいに手を伸ばした。
一番奥に仕舞われてたオレンジのしっかりとしたカバーのノート。
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『なんやろ…これ』 そっと開くと、そこには見慣れた丸い文字が並んでた。
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「日記…?」

 日付とその横に手書きのお天気マーク。 
「今日は1日こんな日だった」な内容の日記。妊娠がわかってから、毎日。
怒ったり、泣いたり。喜んだり。
彼女が思うままに綴ってある言葉達。 
俺のよく知るつぐみが、そこにはいた。
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最後の日付は入院の前日。 
いつもみたいな日記の最後『壱馬へ』って、丁寧に書かれた文字。
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俺宛…?
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【壱馬へ。
もし、これを壱馬が見つけて、読んでるとしたら、私は死んじゃったのかな。 怒ってるよね、約束破っちゃって。
赤ちゃんは?…無事だといいな。
娘はどう?かわいいでしょ?私に似てる? 名前…何になったのかな、気になるなぁ。
どうにかして聞き出せばよかったな(笑)
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この日記を書こうと思ったのはね…。
もし、私が妊娠、出産の間で死んじゃったら、壱馬が自分を責めるんじゃないかって思って。
「『強引にでも止めておけば』って。『何であの時…』って。
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違うよ?
「赤ちゃん楽しみやな」って言ってくれたあの日。 妊娠がわかった日。 その日から今日まで毎日。 私は一生分幸せだったんだよ。
だから、壱馬は自分を責める必要はないからね。 
私は世界一幸せだもん。
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『諦めないでいい』
そう言ってくれてありがとう。 
ほんと、とっても嬉しかった。
空の上から、みんなの事を見守ってます。
大好きだよ、壱馬。     つぐみ】
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どんどん涙が溢れて止まらん。
鼻水か涙かよくわからんまま、両手でそれを何度も拭って。
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「あほっ、ちゃんと生きとるわ。
勝手に空の上なんか行かさんからな…。約束破ったら、 許さんのやから」
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 ぎゅっと抱きしめたノート。 
止まらない涙を何度も拭って、ぽたぽた日記帳に落ちてくそれを手で拭うと、ボールペンのインクが滲む。
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「死んでへんのに、見つけてしもうて、読んだんバレたら怒られるヤツやな、これ(笑)」 
ふふって笑いながら、そっと元に戻した。
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ふぇーん。
さっきやっと寝たばっかの咲依が目を覚ます。
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「ほんま、寝るん苦手やな(笑)」
ゆっくり抱き上げると、パチっと開いた目。
つぐみとそっくりなまんまるい瞳。
大きな黒目に俺が映る。
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「ママんとこ、行くか、な」
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抱っこ紐をして、つぐみの元へと向かう。
 梅雨明けした空は、青が濃くてソフトクリームみたいな雲が存在感を放ってた。
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『生きてる』ただ眠ってるだけ。
そうや、眠ってるだけ。 
俺は絶対諦めん。 
そうつぐみと約束したから。
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.…next
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