if…〜scene6〜
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「明日美、お疲れ様。今日売上どした?これ」
レジを締め終わったタイミングで入ってきた社長。
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「撮影で…」
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「あぁ、あれ今日だったか」
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「適当すぎますよ、本当に」
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「悪い悪い。で?撮影で?」
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「来た人…、高校時代の同級生で」
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「はっ?岡山?」
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「…はい。同級生っていうか、結構仲良かった子で。今アーティスト?ダンサー?だったかな。その子が色々買ってくれました」
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「なるほどね、売上に貢献してくれたんだ」
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「私と洋服の好みが似てて、昔から。大量買いで(笑)」
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「ありがたいね、ほんと。あっ、時間…。明日美、今日バイトは?」
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「そろそろ出ます。22時からなんで」
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「メシは?」
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「時間ないんで、終わって食べます」
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「また牛丼?」
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「『いつも牛丼』みたいに言わないで下さい!たまには違うものも食べてるんで」
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「…そうか?(笑)あのさ、前から一回聞こうと思ってたんだけど。バイトさ…。
うち、そこそこ給料悪くないと思うんだけど」
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「…悪くないですね(笑)」

「そんな金いるの?何?悪い男に捕まってるとか?」
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「…悪い男、そうですね、そうかもしれません。じゃあ、行きます。鍵お願いします」
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レジ下に置いてあったリュックを背負って、慣れた階段をトントンって降りていく。
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『悪い男か…。それなら、まだマシなんやけどな』
 リュックのポケットから取り出したスマホ。
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≪今月分、お昼に振り込みました。確認お願いします≫
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大きく息を吐いて、歩き出す。 
切りたくても、切れない。
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そんな関係…『家族』って。
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彰吾 side
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「やましょーさん、これ…」
昨日買ってやった洋服を律儀に着て来て、俺の目の前 「どうっすか?」って現れた壱馬。
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「ええやん。ん」
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「ありがとうございます、ほんまに」
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そう言いながらメイクしてる俺の隣にストンと座った。
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「昨日あれから…」
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壱馬はそういう類の話には、あんまり興味ないと思ってたのに、鏡越しに目が合うと、頬を少し緩めて、何か言いたそう。
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「…何や」
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「や…、前言うてた人なんかなって。あの…元カノ」
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「明日美はちゃう」
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「えっ?」
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「俺と明日美は友達。元カノは別におる。まぁ、その子は、今何しとるかもわからんけど」
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「…そうなんすか」
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「何でお前がそんな残念そうにすんや」
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「や…何かいい感じやったから、お似合いやなって。やから他に彼女って…なんか…」
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「…美人やったやろ、明日美」
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「えっ?」
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「あいつ、うちの学年一番人気。まぁ女子がそもそも少ないからってのもあるけど。 『明日美にふられた』って話し、俺らの学年何人おるかわからん位やで」
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「…やましょーさんも?」
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「…(笑)俺はビビリやから。よぉ、声かけんかったわ。 そもそも『好き』とかそういうんよぉわからんかったし、あの当時は」
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「でも、彼女がおった…ってさっき」
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「あぁ…。何か合コン行ったら、気に入られて『付き合って下さい』って言われたけん、その時の子と」
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「…好きでもないのに?」
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「(笑)壱馬…お前にはわからんやろな、一生」
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きっと、壱馬には一生わからんやろな、この感じ。
 まぁ、今となっては俺も『何でなん?』とは思わなくもないけど。 
でも当時は『彼女持ち』ってどんなブランドモノ持つよりも、破壊力抜群やったし。 
いい子やったし、別に後悔はない。
何なら、相手に申し訳ない位で。
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「今は?」
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「えっ?」
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「今、久しぶりに再会して…どうなんすか?」
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やけに食い下がってくるな。
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「…どう?って言われてもな」
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「えー」
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「えーって何や」
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「俺、2人いい雰囲気やなって勝手に想像したんすよ。
高校時代の同級生で、数年ぶりに奇跡的に再会して。
それって、何かもう小説とかの世界観でしかないってなってて。
『ええやん』ってテンション上がりますよね、普通」
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「まぁ随分、想像力豊かやな(笑)」
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「2人が話してるんとか、めっちゃいい感じやったから」
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「残念やな、友達やわ。…友達」
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『友達』
自分でそう言うて気づく。
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『友達』やから、いいんやって。
始まりがなければ、終わりは来ない。 
高校時代、俺が踏み出せなかったのはビビったからやない。
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『失いたくなかった』
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ただ、それだけ。
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…next
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