
if…〜scene5〜
.
.
.
「「有難うございました」」
.
短めに撮影を終えると、カメラは下ろされた。
.
.
「壱馬着てみたら?めっちゃええもん、これ。」
.
.
色んな事が頭の中をぐるぐるする俺に、やましょーさんが差し出してくれたボトム。
.
.
「ん…どうぞ。試着室…」
.
「じゃあ…」
.
受け取ったデニムを持って試着室に入るとすーっと目の前に腕が伸びてきて、カーテンを引く腕から仄かにに香るシトラス系の香水。
すっきりしたその中に少しスパイス感もあって。
めっちゃ印象的やった。
.
.
「びびった、マジで」
.
「私もやけ。『しょーごやん』ってなった(笑)」
.
「誰が来るとか聞いてなかったん?」
.
「社長から、『撮影来るから適当にやっといて』って頼まれただけやもん」
.
「適当じゃな、それ(笑)…でも、ええ店やな。俺好きな感じじゃわ」
.
「ありがと。高校の頃さ、よ一行った西口の店に似とらん?ここ」
.
「おー!似とる!でっかいペコちゃん飾っとったとこじゃろ?俺、あれにヒップドロップかまして、店の兄ちゃんにめっちゃキレられたけんな』
.
「何しとんよ、彰吾(笑)私さ、あそこの店のテイストが好きやったんよ。やけ、ここ見つけた時に『ここで働きたい!』ってなって…」
.
.
カーテンの向こうに聞こえる2人の話し声に、自然と緩む頰。
何か俺の知らんやましょーさんが、2人の会話には見える気がして。『ええな』ってあったかい気分になれる気がした。
.
.
「どうっすか?」
.
止まらない2人の会話に出てくタイミングを失った俺。
そっとカーテンを開けると、思った通りの優しい2人の表情がすぐそこに。
.
.
「おっ、ええやん。似合う似合う」
.
「ん、今着てるトップスにも合いますよ。これからの時期だったら、キレイ目なジャケット合わせても…」
.
.
靴を履いて大きい鏡の前に立つ。
『ん、ほんまええかも』
.
.
「こういうのと合わせても…」
.
俺の右側から出されたコーデュロイのジャケット。 俺を見上げるキャップの下の瞳。
しっかりアイラインをひいてあるアーモンドアイ。
.
しっかり目が合ったその一瞬、等間隔に刻んでた心音の波形が、一瞬大きく上下に揺れた気がした。
.
.
でも、それが何でなんかはわからんまま…。
.
.
.
『何でもない…』
.
そのはずやった。
.
.
.
彰吾 side
.
.
.
「お疲れ様でした」
.
「俺、ちょっと…」
.
.
俺のその「…」の部分を壱馬もスタッフさんも汲み取ってくれたんやと思う。
.
「じゃあ、俺ら先に…」
.
「ん、お疲れ。壱馬ありがとな、今日」
.
「や…これ、ありがとうございます」
.
.
紙袋を持ち上げると、目をパチパチさせて、嬉しそうにする。
.
.
『買ってあげたら? 先輩なんやろ?』
明日美のその一言。
『いいんすか?』
いつもは一回は遠慮する壱馬も、目をキラキラさせてるし。
.
『ええよ?もちろん。』
まぁ、もちろん買ってやるつもりではおったけども。
.
.
壱馬達のタクシーを見送って、さっき降りてきた階段をタンタンってあがって、ドアをゆっくり引いた。
.
.
「売上に貢献してやったで」
.
「ありがとうございます」
.
洋服を畳む手を止めると、目を合わせてふふって笑った。
きっちり化粧してても、笑った顔はあの頃のまま。
.
.
「ええなって思ったん結構あったけ、普通に買い物したいんやけど…ええ?まだ時間」
.
「21時クローズやから、どうぞ」
.
「明日美、おススメは?これ、レアなんです、みたいなんとか。一見さんには出してませんとかある?」
.
「あるけど…、ええ値段やで?」
.
「とりあえず、見るだけ(笑)」
.
「見るだけ(笑)」
.
「「(笑)」」
.
.
店の隅からゆっくりと見てると、ぽつぽつ入ってくるお客さん。
.
.
『標準語…』
仕事してる彼女の姿に、この5年の時間を経過を感じる。時間は進んでるって。
.
.
「これと、これ。後、これも」
.
「そんなに?さっき壱馬くんに買ってあげたやつ、高いやつやったのに?見栄張らんでええで」
.
「あほ、これ位いけるけ。舐めんな」
.
「(笑)じゃあ、ありがとうございます」
.
.
トルソーに洋服を着せながら、俺の選んだ洋服に目を向けると「しょーごっぽい!」って、 目を大きく見開く。
.
「昔からゆったり着るのが好きやもんね。それと、『襟がついてる』が大事だったんよね?かっこいいより、かわいいが好き、でしょ?」
.
「あっ…ん」
そんな細かい事何で覚えてるん?って思ってしまう。
『俺っぽい』それがわかる事に胸の奥、ぎゅってなる。
.
支払いを済ませ、大きな紙袋を2つ受け取ると「ありがとうね」って、首を少し傾ける。
.
「また、来るわ」
.
「ん」
.
.
階段を降りて、見上げた二階。
『運命』…そんな言葉が頭を過って、笑ってまう。
.
.
「はずっ」
.
.
2階にある店の斜め上に見えた三日月は…あの頃と似てる気がした。
.
.
.
…next
.
.
.