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if…〜scene14〜
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「壱馬くん?」
「へっ?あっ!えっ?」
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急に名前を呼ばれて目が合うと、俺がじっと見てたんがバレた気がして、上ずる声。
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「(笑)…これ、一緒に渡してもらってもいい? 彰吾に」
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「ん?」
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「高いものは買えないけど。気持ちだけでもってね。
壱馬くんからのプレゼントと合わせたらきっといい感じだから」
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レジの横にたくさん飾ってある缶バッチの中から3つ。「これと…、これ。…後、これ好きやろな」って。
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小さい紙袋に入れて、ラッピングがされてる袋と一緒に差し出した。
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「自分で渡したら? やましょーさん喜ぶと思うけど…」
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「いい、いい。私、そういうの苦手なん。『ありがと』とか『うれしい』とかなったら、恥ずかしいんよ。やから、しれっと渡しといて。
『売れ残りやでって言うてた』とか言うてくれたらええから」
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「ん……」
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『直接渡したら喜ぶのに…絶対』
そう思いながらも、押し切られてしもうて。
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「あっ、時間…」
細い腕に不釣り合いな位のでっかい腕時計を見て、はっとする顔。
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「何か予定あるんやったん?ごめん!」
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「いや…バイト。あっ…」
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「バイト?」
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「…ん。こないだ牛丼屋さんで逢ったんも、それの帰り。彰吾には黙っといて。あんま知られたくない」
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確かに、普通の人が牛丼食べる時間ではなかったけど、別に深夜に女の人が一人で牛丼食べてても、俺的には、別に違和感はない。深夜にバイトっていうのも、人それぞれ色々あるやろって思う位。
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「そうなんや…ここの他にも働いてるんや…」
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「ん…。ねぇ、私の事、可哀想…って、思う?」
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明日美 side
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『可哀想だと思う』
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バイト終わりに、自分が磨いたガラスに映る姿を見て『惨め』だと思わない日はない。
でも、それは、そこに映る自分が惨めなんじゃない。
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『惨め』だと自分に自信を失くしてる事にだった。
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洋服の仕事は好き。清掃のバイトだって嫌いじゃない。
でも、周りを見れば大学に行ってる人、夢に向かってる人。
遠い先の自分を追ってる人がたくさんいて。
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私は、毎日生きてく事でいっぱいいっぱいだった。
お金もない。夢なんて…、考えたこともない。
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『明日美』
その名前に相応しい明日なんて、ずっと来ない気がしてた。
そんな自分は、周りから見たら『可哀想』に見えるのかなって。
周りがどう思うかなんてどうでもいい…、そう言い切れない。…そんなに強くない。
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「何で?」
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私の質問に質問で返してきた壱馬くん。
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パチパチって2回瞬きをすると店のオレンジのライトが彼の黒目に映る。
聞いて欲しいと思ったわけじゃない。
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でも、誰にも話した事なかった過去は、まだ逢うのが3回目の彼へと言葉になって溢れ出た。
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「何か自分でもよぉわからんのんよ。
今『彰吾には黙っといて』って言うたやろ? 別に知られて困るとかじゃないんやけど。何か惨めやなって…。
昔はさ、机並べて一緒におったのに、彰吾は、夢叶えて成功してて、私は、仕事しながらバイトもして。
それ知ったら、私の事可哀想とか思うんかなって、思ったん。何か彰吾にそうは思われたくなかったんよ」
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「思わんやろ。やましょーさん、そんな人ちゃうと思うけど」
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「ん…そうやんね。何か私、性格わるっ、ださっ(笑)」
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「明日美さんが仕事しながらバイトしとるには、理由がちゃんとあるやん。
なら、別に誰に隠す必要も、惨めに感じる必要もないって思う」
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「…ん」
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「すごいやん。昼間仕事して、まだ働いてるんやろ?何しよん?夜」
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「掃除…ビルの掃除。窓拭いたり、床磨いたり。時給いいんよ」
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「あのでっかいモップみたいな機械使うやつ?」
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「そうそう、それ!」
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「ぶぉーんってすごい音するやつやろ?あれ、操縦できるん? 明日美さん」
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「操縦って…(笑)ん、できるで。もう結構ベテランやけん」
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「すごっ。めっちゃすごい!」
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誰かに「すごい」なんて言われた事なくて、どう返していいかわからんかった。
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「可哀想なんか、1ミリも思わんで、俺。」
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目の奥がぎゅーってなったら、自分でもわからんまま涙が溢れて、止まらんくて。
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「明日美さん?えっ、や…ちょっ」
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「ごめんごめん。何?どしたん?私(笑)」
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顔を覆う私を見て、カウンターの上に置いてあった自分のかばんの中から小さいタオルを慌てて出してきて黙って私の手に握らせた壱馬くん。
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「ごめんね…ごめん」
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それ以外の言葉が私は、見つからなかった。
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「話して、落ち着くなら聞くし…。独り言でも、ええよ。言葉にしたら、違う事もあるって、思う」
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まとまりのない私の言葉を、ただ黙って聞いてくれた。
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