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if…scene13〜
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「壱馬さん、やましょーさんの誕生日プレゼント、決めました?」
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「いや、まだ…」
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「何がいいっすかね…今からどっか見に行きますか?」
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「あぁ…ん、そうやな」
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リハ終わり、慎とやましょーさんのプレゼントの相談。
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「はいっ、壱馬、まこっちゃん、おすそ分け」
慎と俺の間、差し出されたクッキー。
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その腕の先へと視線を向けると「これ、久々食べたくなって…」ブルーの箱を持った北人が「おいしいよ」って笑う。
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「ありがと」
受け取ったそれを見て「あっ…」ってなる。
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『何かお菓子の名前にある? それ?』 彼女のあの日のセリフ。
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「ほんま、似とる…」
ムーンライトって名前も、その色も形も。あの日のと。
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「壱馬さん、じゃあタクシー…」
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「あっ、慎。ごめん、俺、用事思い出した」
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「えっ?」
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「北人が…一緒に行くって。俺先帰るわ、お疲れ」
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クッキーの箱を持ったまま、ぽかんとしてる北人と慎を置いて、荷物を一瞬でかき集めて事務所を後にした。
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あの日から、ずっと頭の隅っこにおる人。
手に持ってるクッキーと、やましょーさんの誕生日プレゼント。
逢いに行くきっかけとしては、問題なし。
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「店は21時まで」言うてたもんな。
タクシーを降りて、2回目のその場所へと向かう。
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「えっ…」
入口の看板…ない。
嫌な予感がして、2階を見上げたら電気ついてない。
ウソやろ。
スマホで店舗情報を確認。
定休日火曜。
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マジないわ。
7分の1のその日にドンピシャな俺って、どうなん。
しゃーない。 帰ろ。
クッキーだけでも置いて帰ろうか…。いや、あかん。落とし物にしか思わんよな、 怪しすぎる。
割れんように大事にしまっとこ。
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その時、2階の階段からタンタンって降りてくる足音に、自然に振り返った。
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「「えっ?なんで?」」
2人して、同じセリフ。きっと顔もよぉ似てたと思う。
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「「ふっ(笑)」」
同じタイミングで笑ってしまって、お互い気まずい。
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「壱馬くん?どしたの?」
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「いや…あの…え?店、休みやったんやないん?」
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「あー、ん。そうなんだけど 社長が海外から大量に置い付けしてきて…その片付けにちょっとだけ」
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「そうなんや」
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「で?お買い物に来てくれたの?」
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「あっ、ん。それもあるんやけど、これっ」
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彼女の目の前に出した大切に持って来たクッキー。
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「これの事言うてたん?こないだ」
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「あーそう!これっ。えっと、ほら、ムーンライト! そう!これやん。な、似とるやろ名前!形やって!な?」
テンションあがって方言出てる明日美さん。
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両手で大事そうに持ち上げて、空に向けると、あの日の月ほどではないけど、今日も満月。
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「ふふっ、同じやな。ほんまや」
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「でしょ?あっ、えっと、お買い物か…どうぞ、いいよ」
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「でも、お休みって…」
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「誰もいない方が、壱馬くんにはいいでしょ?私も、まだやりたい仕事あるから、遠慮なく」
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「じゃあ」
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看板の出てないお店。
誰も入ってくる事はない安心感。
被ってた帽子も眼鏡も外しながら、狭い階段をあがってく。
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「どうぞ、自由に試着もしてね」
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「ん。誕生日プレゼントを…」
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「プレゼント?お友達?…ひょっとして、彼女
?」
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「いや…やましょーさんの」
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「彰吾?誕生日なの?」
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「知らんかった?」
「友達の誕生日までは、知らないな…」
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『友達』はっきりそう言った。
やましょーさんと同じ。
正直、『2人は…』って思ってたりもしたから、それを否定する言葉に、ふって心が緩んだのを確かに感じた。
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「彰吾の誕生日かぁ…」
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カウンターの上に並べてある、まだビニールに入ったままの洋服に手を伸ばす。
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「壱馬くん、これ…どう?」
『じゃん』って広げてくれたのは、モスグリーンのチェックのシャツ。 くたっとなった感じと袖のボタンホールの横についてる小さいワッペン。
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「っぽい!!」
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「でしょ?(笑)」
もう、感動するって位、やましょーさんのイメージで。
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「これ、さっき段ボールを開けた時、彰吾っぽい!って思ったの」 って嬉しそう。
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「これ…いいん?俺が買うても。
明日美さんからやましょーさんにプレゼントする?」
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「えっ?しないしない。値段、見たらびっくりするから」
襟元の付けられたタグは、シャツにしてはびびる値段。
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「えっ?マジで?」
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「でしょ? びっくりでしょ?古着ってね、そんなもんだから。…どうする?壱馬くん(笑)」
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いや…値段見て辞めるとかできんし。
それに、めっちゃいいって思ったのは事実やし。
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「買う…買います(笑)」
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「ありがとうございます(笑)、ラッピングしとくね。よかったら、他も見てって」
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「ん」
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慣れた手つきで、シャツをラッピングをする彼女を、気づかれないようにこっそり観察。
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嬉しそうにリボンを選ぶその顔にぎゅってなる心臓。こないだ大きく心音が揺れた時と同じ。
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この感覚…。
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…next
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